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  1. 熊本県議会 1983-02-01
    03月09日-08号


    取得元: 熊本県議会公式サイト
    最終取得日: 2023-05-26
    昭和58年 2月 定例会┌──────────────────┐│  第 八 号(三月九日)     │└──────────────────┘ 昭  和 五十八年 熊本県議会二月定例会会議録    第八号──────────────────────────昭和五十八年三月九日(水曜日)   ――――――――――――――――――――   議事日程 第八号  昭和五十八年三月九日(水曜日)午前十時開議 第一 一般質問(議案に対する質疑並びに県の一般事務について) 第二 常任委員会に付託(第二十一号から第四十六号まで、第五十一号から第六十号まで) 第三 委員会に付託(請願、陳情) 第四 休会の議決   ――――――――――――――――――――本日の会議に付した事件 日程第一 一般質問(議案に対する質疑並びに県の一般事務について) 日程第二 常任委員会に付託(第二十一号から第四十六号まで、第五十一号から第六十号まで) 日程第三 委員会に付託(請願、陳情) 日程第四 休会の議決      ―――――――○―――――――出席議員(五十名)                 西 岡 勝 成 君                 深 水 吉 彦 君                 阿曽田   清 君                 橋 本 太 郎 君                 松 家   博 君                 岩 下 榮 一 君                 下 川   亨 君                 林 田 幸 治 君                 三 角 保 之 君                 岩 永 米 人 君                 児 玉 文 雄 君                 山 本 秀 久 君                 古 本 太 士 君                 八 浪 知 行 君                 杉 森 猛 夫 君                 鏡   昭 二 君                 高 田 昭二郎 君                 柴 田 徳 義 君                 広 瀬 博 美 君                 浜 崎 三 鶴 君                 古 閑 一 夫 君                 魚 住 汎 英 君                 馬 場 三 則 君                 木 村 健 一 君                 平 川 和 人 君                 北 里 達之助 君                 金 子 康 男 君                 荒 木   斉 君                 井 上 栄 次 君                 竹 島   勇 君                 今 井   洸 君                 米 原 賢 士 君                 古 閑 三 博 君                 井ノ上 龍 生 君                 永 田 悦 雄 君                 甲 斐 孝 行 君                 八 木 繁 尚 君                 幸 山 繁 信 君                 池 田 定 行 君                 小 材   学 君                 岩 崎 六 郎 君                 沼 川 洋 一 君                 水 田 伸 三 君                 杉 村 国 夫 君                 今 村   来 君                 小 谷 久爾夫 君                 橋 本 盈 雄 君                 増 田 英 夫 君                 中 村   晋 君                 酒 井 善 為 君欠席議員(四名)                 渡 辺 知 博 君                 宮 元 玄次郎 君                 浦 田   勝 君                 倉 重 末 喜 君    ――――――――――――――――――――説明のため出席した者         知事      細 川 護 熙 君         副知事     藤 本 伸 哉 君         出納長     松 下   勝 君         総務部長    原 田 富 夫 君         企画開発部長  岡 田 康 彦 君         福祉生活部長  常 川   清 君         衛生部長    清 田 幸 雄 君         公害部長    山 内   新 君         商工観光労働         部長      蓼 沼 朗 寿 君         農政部長    八 浪 道 雄 君         林務水産部長  伴   正 善 君         土木部長    三 原 節 郎 君         公営企業管理者 大 塚 由 成 君         教育委員会         委員長     本 田 不二郎 君         教育長     外 村 次 郎 君         警察本部長   漆 間 英 治 君         人事委員会         事務局長    道 越   温 君         監査委員    緒 方 隆 雄 君    ――――――――――――――――――――事務局職員出席者         事務局長    高 松 光 昌         事務局次長   花 谷   学         議事課長    小 池 敏 之         議事課長補佐  中 野 真 一         主幹      山 下 勝 朗         参事      光 永 恭 子      ―――――――○―――――――  午前十時三十二分開議 ○議長(八木繁尚君) これより本日の会議を開きます。      ―――――――○――――――― △日程第一 一般質問 ○議長(八木繁尚君) 日程に従いまして日程第一、昨日に引き続き一般質問を行います。井上栄次君。  〔井上栄次君登壇〕(拍手) ◆(井上栄次君) おはようございます。私は、日本共産党を代表して細川知事に質問いたします。最後の質問の機会を与えていただきました同僚議員諸君にまず冒頭に感謝を申し上げたいと思います。時間の制約がありますので、答弁は質問の中心点に的をしぼって簡潔、明快にお願いいたします。 さて、何分にも実績のない新知事に対する質問ですから勢い本会議中の発言や、知事選挙前後を通じて発表された文書、演説、談話等に即して行うことになりますが、私は、それらの中で、特に政治姿勢政治倫理の問題という幾つかの主要な政策課題についてお尋ねしたいと思います。 まず第一に、政治姿勢政治倫理についてお伺いいたします。 御承知のように、今次県知事選挙の投票率は四五・八一%で史上最低を記録しました。しかも、約二万票の無効票があり、あなたの得票は、前回の同じ自民党公認沢田一精氏の得票数より十万票近くも減少しました。これらの事実をあなたはどう受けとめておられますか。 当選が決まった夜のテレビインタビューで、投票率の低さや無効票の多いことに答えて、あなたは、こういう形の選挙になったのは自民党候補が勝つという安心感があったのではないかという趣旨のことを述べられました。つまり細川が当選するだろうとの安心感があって棄権した人が多かったのだとの趣旨に受け取れる発言がございました。私は、これを聞いた瞬間、率直に言って、何と思い上がった態度であろうかと思いました。全国最年少知事として初当選した喜びと、その気負いは十分わかります。しかし、万人が見るとおり、史上最低の投票率は、十カ月に及ぶ醜い自民党内のあなたと沢田前知事との公認争いに対する、そしてまた田中軍団の金力と権力を背景として公認を強引にもぎ取ったという報道にも見られる、あなたに対する県民の厳正な審判のあらわれであったことは疑いありません。あなた自身、立会演説会でも繰り返し「高率で信任いただくことが強力な県政を進めるかぎだ」と述べ、あなたの後援会長沼田一氏も「要は投票率、最低六〇%はないと信任されたとは言えない」と檄を飛ばしておられたではありませんか。それが結果として最低投票率になってみると、反省の言葉はみじんもなく、かえって自分の支持者が安心して棄権したのだと言われる。あなたはまだお若いわけです。それだけにもっと謙虚に県民の批判と声を受けとめる姿勢を持ってほしいと思います。そうでなければ県民は、今後の県政運営をあなたに安心してお任せすることはできません。この点について改めて知事の御所見を承りたいと思います。 次に、いま政治倫理を語る場合どうしても避けられないのが、金権腐敗の権化ともいうべき田中角栄との関係であります。田中は、内閣総理大臣の地位を利用して、外国企業から五億円の賄賂をもらい、去る一月二十六日、検察当局から、懲役五年、追徴金五億円という受託収賄罪としては最高の求刑を受けた男であります。この田中の汚職が天下に明らかになったのは、御承知のとおりすでに七年前の一九七六年二月、いわゆるロッキード疑獄の発覚でありますが、その間、国民の厳しい批判があったにもかかわらず、あなたは参議院議員としてずっと田中派に身を置いてこられました。この事実はあなたも認めておられるところですが、知事選の中で、あなたは「参議院議員をやめたのだからもう田中派とは関係ない」とか、あるいは「知事は一人、私は県民党である」などとしきりに田中離れの印象を強調しておられました。本当にもう田中派とは関係ないのか、この場で県民の前にはっきりとお答えいただきたいと思います。 田中角栄に対する論告求刑のあった当日の午後七時、あなたは旅館で報道陣の質問に答えて「格別に言うことはないし、またそういうコメントをする立場でもないが、政治家の出処進退はみずから判断すべきことで、周りがとやかく言うべきことではないだろう」とのことを述べられました。これは、やめるかやめないかは本人次第、やりたいと言えばやらせればよいではないかということにもつながるわけです。田中擁護中曽根総理の国会答弁と全くうり二つです。これは、国民、県民大多数の感情とは全く相入れないものです。結局、あなたがこういう田中擁護のコメントをするのも、田中派閥にいるから出てくるのではないでしょうか。そうでなければ、圧倒的大多数の国民、県民が田中辞職を求めているとき、あえてやめろというのが悪いかのごとく受け取れる発言をすることはできなかったはずです。本当にあなたは田中派閥から離脱されたのですか、もう一度念を押しておきたいと思います。 政治倫理確立の問題でもう一点。昨年発生した県土木部幹部による汚職、また県下自治体で頻発している首長汚職を初めとする公共工事等に関する汚職に対する姿勢であります。 上は田中角栄ロッキード汚職から、下は町長汚職に至るまで相次ぐ汚職事件の頻発で、いまや国民、県民の行政に対する信頼は地に落ち、その信頼回復に全力を挙げなければならないときであります。まさにそのようなときに知事に就任されたにもかかわらず、あなたは本議場を通じての県政運営における基本姿勢の表明に当たって、綱紀粛正政治倫理の確立について、ついに一言も触れられなかったのであります。一体なぜ政治倫理の確立、綱紀粛正汚職腐敗の一掃と言われなかったのか。また、この問題についてどのような見解と決意を持っておられるのか。この際、明快な御答弁をお願いいたします。 次に、人事問題についてごく簡単にお尋ねをいたします。 人事問題は、新知事にとって重要な課題であるだけでなく、県職員はもとより一般県民にとっても重要な関心事であります。全般的な問題は省略をいたします。最高役職の副知事に限って、二点だけ質問をいたします。 第一に、知事は、副知事を現在の一人から二人にする構想をお持ちなのではないでしょうか。 第二に、知事は、田中角栄派閥に属する本県出身の国土庁地方振興局長川俣芳郎氏を副知事に起用するのではないかとうわさされておりますが、事実そのようなお考えがおありでしょうか。率直に本音をお聞かせくだされば幸いです。 以上、第一回の質問を終わります。  〔知事細川護熙君登壇〕 ◎知事(細川護熙君) お答え申し上げます。 井上議員も今議会を限りに後進に道を譲られるというふうに承っておりますが、立場は違いますが大変にさびしいことでございます。どうぞひとつ今後とも御健勝で御自愛をいただきますように心から祈念を申し上げます。(拍手) しかし、最後の御質問にしては大分手厳しいお話でございまして、幾つかの点についてお話がございましたが、初めは選挙結果についてのお話でございました。 今回は、各党が参加をせられた選挙ではございませんで共自対決の選挙であったわけでございますが、往々にしてこういうケースの場合にはあのような形になりやすいということを申し上げておるわけでございまして、私は今回の選挙が特別なケースであるとは考えておりません。ただ百八十万県民の信頼をいただくということが何よりも県政推進の一番大きな根本であって、私はこの信任の結果というものを素直に受けとめて、県民による県民のための県政というものを目指してその負託にこたえてまいりたいと、こういうことを申し上げておるわけでございます。 それから第二のお尋ねは、田中派から本当に抜けたのかというお話でございました。 私は、共産党さんの場合の入党、脱会の手続につきましては寡聞にして存じませんが、自由民主党という政党は大変自由な政党でございまして、入党する場合も、党費を納めれば何人といえども入党することができる、また脱会をする場合には、党費を納めなければ自動的に党員たるの資格を失うわけでございます。 いま田中派というお話でございましたが、田中派というものは現実に存在をしておりません。恐らく言われるのは木曜クラブという政策集団のことをおっしゃっておられるんだろうと思いますが、その木曜クラブの場合におきましても、いま申し上げました自由民主党の場合と全く入党、入会、脱会の場合の規定は同様でございまして、これは木曜クラブの場合におきましては二万円の月の会費を払うということでございます。私は二月からすでに会費を納めておりませんから、自動的にその資格を失っておるはずだと考えております。あくまでも木曜クラブというのは、国会議員が国会で政治活動をするための政策集団でございまして、そういう意味でも私はその資格はないわけでございます。 ただ、いずれにいたしましても、前から申し上げておりますように、地方自治と中央派閥というものは全く無縁であるということを申し上げておるわけでございまして、そのことを私は県政運営の中で示してまいりたい、こういうことを申し上げておるところでございます。 それから第三点は、綱紀の粛正、政治倫理の確立というお尋ねでございました。 そういうことを何も言っていないではないかというお尋ねでございましたが、私は幾たびか申し上げて、それについて触れておるつもりでございます。天を恐れる気持ちで一人を慎むという心構えで、常に自戒をしつつ県政の運営に当たってまいりたいと、こういうことを申し上げておるわけでございます。道義のあまねく行き渡った社会を真の文明社会であると言うならば、私自身を含めて県職一同常にえりを正して、道義のたっとばれる社会の確立のために努めて心がけてまいりたいと、このように考えておるところでございます。 第四のお尋ねは、副知事の問題についてのお尋ねでございました。全く考えておりません。県民の多くから信頼を得、また県職員から絶大なる信望を集めておられる有能な副知事さんは、たった一人おられれば十分だと考えております。 それから後のお話は、外部からの副知事の問題、起用の考えがあるのではないかと具体的な名前も挙げてのお話でございましたが、そういうことは全く私のあずかり知らぬことでございまして、先ほども申し上げましたように現副知事さんに全幅の信頼を置いておるわけでございますから、そういうことは全く考えておりません。  〔井上栄次君登壇〕 ◆(井上栄次君) いま知事からお答えをいただきましたが、田中派閥の問題については、形式上のお答えはありましたけれども、本質、実態的な問題については、これでは県民まだ納得しかねます。要は、田中自身が自民党員ではないんですから。しかも、私が「田中派閥」という用語を使ってお尋ねをしている真意というものがどこにあるのか、これを十分御理解いただきたいと思います。同時に、国会議員をもって構成している木曜クラブ、このことは私よく知りませんけれども、しかし巷間に言われているように、たとえば新潟県長岡市長が田中の直系であると、こういうふうに言われる場合の田中派閥、これと同様なことが細川知事にいまでもあるのではないかということを私はお尋ねしているのです。それがないということが明らかになれば県民は大変安心するわけです。このことを肝に銘じていただきたいと思います。 次に、副知事その他の問題について明快なお答えがありましたので、私は、その点については了解というか、おっしゃる意味がよくわかりました。 それで、政治倫理の問題はそれぐらいにしまして、時間の関係がありますので、次に幾つかの政策課題についてお尋ねをいたします。 第一は、本県の基幹産業である農業問題についてであります。 細川知事は、農業問題にきわめて強い関心と意欲を持っておられるようで、本会議での所信表明でも第一の重点施策に取り上げられました。また、公認争いの真っ最中に発表されたこのパンフレット――実は、知事さん、あなたが最初にお出しになったこのパンフレットと、次はこれ改訂版になっているんですよ。ただ、幸いにしてというか、質問上、農業問題については変更がありませんので、このパンフレットについてお尋ねをいたしておきます。 この中で、七ページにわたって、いわゆる細川農政ともいうべき構想と展望を示されています。私はいま、このパンフレットの「パイロット農政十カ年計画――豊かな農村づくり――」の内容について幾つかの問題点を指摘し、真の熊本農業発展の道はどこにあるかということを示しつつ知事の所見を求めたいと思います。 知事は、本県農業発展策のすべての基調の論拠に技術革新の可能性を挙げておられます。パンフレットの二十一ページによれば「現在、各地の試験場、大学、先進農家などで開発されている高収量技術によって、近い将来に確実に達成されると見込まれている十アール当たりの高収量目標は、水稲七二〇キロ(現在全国平均四八〇キロ)、麦類六〇〇―八〇〇キロ(同三〇〇―三五〇キロ)、大豆四〇〇―五〇〇キロ(同一二〇―一五〇キロ)、牧草十五トン(同四トン)などであります。」と書かれています。いずれも現在収量の二倍ないし四倍に当たります。 高収量目標の論拠が不明確ですけれども、これはいずれも農業試験場における多収穫試験の技術目標であり、試験条件をそれぞれ単一作物に合わせて好適に設定し、かなりな手間と時間をかけてようやく部分的に達成し得る水準であるのであります。決して一般的な技術水準として、近い将来確実に達成されるというものではありません。昭和五十五年十月の政府諮問機関である農政審議会答申「八〇年代の農政の基本方向」における長期見通しでさえ、昭和六十五年に水稲五百十キロ、麦類三百五十ないし四百キロ、大豆二百キロの収量水準を見込んでいるにすぎません。夢を持つのはいいが、こういった高収量の目標が近い将来あたかも実現するかのように言い、一般的に手の届くものとして宣伝することは、これまで熊本農業が培ってきた発展の伝統を無視し、白紙に戻すことで、県農業の抱える現実の問題から目をそらせる以外の何ものでもありません。まず論拠を簡単にお示しください。 次に、高収量実現のための条件として、耕地の賃貸、受委託などによる耕作規模の拡大を挙げておられますが、その可能性はどうでしょうか。借入地の割合は近年高まってきているものの、現状では借地率は平均七・九%にすぎません。経営耕地一ヘクタール以上の農家をとってみても借地率は八・六%であり、二ヘクタール以上の農家でも九・九%にとどまっております。土地を広げたいという人は多いけれども、土地を貸したり預けたりという人は少なく部分的であります。同時にまた、借地の場合、十アール当たり米三俵ないし二俵半と言われている地代や、三百万円前後といった高価な地価に示される土地問題の解決なくして規模拡大を言っても、それは抽象的にすぎません。土地政策のない農政は、農政の名に値しないのではないでしょうか。 次に、あなたが示す大規模経営による高収量農業の実態は、単一作物規模拡大を基調として生産性向上を図ろうとするもので、これはこれまでの本県農業の実態とは外れており、また従来の熊本県農政の基調である地域複合農業路線ともかけ離れたものになっております。 本県の単一経営農家、これは主作目が収入の八割を超える経営を言いますけれども、これは四四%であります。しかし、一ヘクタール以上の平均規模以上になると、単一経営は二九・二%と少なくなってきます。稲プラスアルファ肉用牛プラスアルファといった複合経営が七割余を占めており、これらの農家は何らかの形で、野菜、施設園芸、工芸作物といった複合部門を取り入れた経営を行っているのであります。農政の眼目は、単一作目での規模拡大のみを志向する方向にでなく、むしろ、このような複合経営をどう発展させるかという点にこそ置くべきではないでしょうか。知事いかがでしょうか。 複合経営を発展させる上で重要なことは、価格政策の充実という点であります。残念ながら、あなたの熊本農業発展の構想と手法の中には、この点が全く欠けております。価格政策のない農政もまた農政の名に値しません。 知事は、生産性向上規模拡大コスト低下という論理で展望を描こうとしておられますが、現実はどうでしょうか。全農家の二割近くを占める肉用牛経営を見てみると、子牛価格は、ほぼ恒常的と言っていいほど生産費水準をさえ下回るという状況に置かれ、その結果、肉用牛経営の収益性はきわめて低い水準に据え置かれているのであります。子牛価格安定基金制度という価格システムがあるにはありますが、しかし保証基準価格が最近若干上がったとはいえ、政府統計の生産費さえ下回って定められているのが現状であります。規模拡大すればするほど借金がふえるという現象が起こっており、肉用牛農家固定化負債額は、県の資料によってみても、昭和五十七年現在では繁殖で一戸当たり平均百九十九万円、肥育で八百三十四万円、多い者は五千万円を超えております。知事は、これらの事実をどのように考えておられますか。 また、あなたは、高収量の農業生産を一般化するためには「大型機械化ができるような耕地基盤を整備することによって二十五―三十センチの深耕をし、毎年十アール当たり約二トンの良質堆肥を与える」ということで、こういう農業専門家なる者の論を紹介し、それを推進しようとしておられますが、十数年来定着し今日に至っている、浅耕、化学肥料依存の現状を、かけ声だけでなく実際に実現するためにはどのような処置をとればよろしいと考えておられるのですか。その道行きをお知らせください。今日でも良質の堆肥が安定して安価に入手できる条件はありませんが、あなたの単一作目高収量方式では一層その可能性が少なくなるのではないでしょうか。 あなたも強調されている土地基盤整備の重要性は言うまでもありません。問題は、どのような基盤整備をするかということであります。五十ないし七十馬力の大型トラクターが自由に走行できるための圃場整備という面工事よりも――それはそれで必要でしょうけれども、そういう面工事よりも、用排水の自由なコントロールのできる水田圃場をどうつくるか。さらに傾斜地の耕地を含めた中小規模の土地改良をどう行っていくかが、現在の緊急課題であると同時に、将来を見通した本県農業発展の上からも重要な課題であると思いますが、知事いかがでしょうか。急傾斜地における耕作放棄による農地の壊廃がふえている現状からして、農地保全、耕作面積拡大の上からも重要だと思います。生産力の向上だけを目指した基盤整備の弊害は、国の農政当局でさえ自己批判している状態です。 熊本農業は、知事も認めておられるように、粗生産額全国第五位という屈指の農業県であります。これを支えてきたのは、さきに述べたように複合経営の農家であります。しかも、二毛作、三毛作という土地の高度利用を基軸に展開してきた経営努力の結果でもあります。八代のイグサにしても、植木の施設園芸にしても皆しかりであります。しかしながら、全体的に見れば土地利用は、昭和三十年代の一七〇%台という高い利用率から、現在では全国比較ではすぐれているというものの一一〇%台へと激しく低下しています。麦類、豆類、雑穀、カンショといった現在では最も自給率の低下が著しい作物を中心に作付面積が激減しているのであります。この一一〇%台という水準は、東北北陸という単作地帯と変わらなくなったことを意味しております。こうした事態は、まさしく暖地二毛作の伝統が、農産物輸入自由化や臨調路線に基づくいわゆる開放体制への圧力と移行のもとで突き崩されてきたことを示しております。二毛作の伝統に基づく複合経営をいかに守り発展させていくか。このことこそ熊本県農業に課せられた世界史的な課題であり誇りある使命であると考えますが、いかがですか。 そのためには、当面まず何よりも、牛肉、オレンジ等の輸入自由化に反対し、熊本の畜産と果樹の安定的な発展を保障することが第一歩であると考えますが、知事いかがでしょうか。この輸入自由化反対については、農政部長が意思表明いたしましたが、改めて知事の見解を求めたいと思います。 また、生産費を償わない現在の価格基準を引き上げ、最低限生産費に見合うものにすること。たとえば子牛安定価格基準をもっと引き上げるとか、ミカン加工原料の価格安定を図るとか、県でもやろうと思えばできることについてどのようなお考えをお持ちでしょうか。国の制度に乗っかってやられても結構ですし、独自におやりになっても結構ですけれども、これらの点について知事の所見をお聞かせください。 要するに、このパンフレットに示された農業論というか農政論というか、これは結論的に言って、二毛作を基調とする熊本県の伝統から出発した地に生えた議論ではなく、あなたがいみじくも本会議場で言われた、アメリカや東京からの発想に根差す、岩持全農会長の言葉をかりれば財界型の農業政策であり臨調型の農政論であるようであります。知事は、このような議論を選挙中のパンフレットに載せたものであって、採用する気はないとか、あるいは大幅に修正するとか、何らかの意思表示をせられることを望むものでありますけれども、いかがですか。 なお、これまで述べました質問点については簡明にお答えをいただきたいと思います。  〔知事細川護熙君登壇〕 ◎知事(細川護熙君) お答え申し上げます。 農業の問題についていろいろお話がございましたが、いずれもいささか認識を異にしておる部分があるようでございます。 初めに、高収量を明示した根拠についてお尋ねでございましたが、県の農業試験場におきましても、すでに十アール当たり水稲七百六十キロ、小麦で六百三十キロ、大豆で四百五十キロ、そういう実績を上げておりますし、また一部の先進農家におきましても、水稲七百二十キロ、小麦で六百キロ、大豆で四百四十六キロ、飼料作物で約十五トンと、いずれもその同水準の収量を上げておるわけでございます。 現在のところ、試験研究機関や一部の先進農家でそのように高い収量を上げておるわけでございますが、これらは土地基盤整備を軸にいたしまして、深耕、堆厩肥増投による土づくりと合理的な水の管理、あるいはすぐれた品種の導入などによりまして、すでに開発をされております技術を総合的に組み立てて実践することによってそのように高い収量を上げておるわけでございまして、今後集落が一丸となってそのような手法を駆使していくならば高収量を一般化していくことは決して不可能ではないと、私はそのように申し上げておるわけでございます。 それから第二のお尋ねは、複合経営についてのお尋ねでございましたが、規模や土地基盤の整備による機械化作業体系の確立によりまして農業の生産性を高めていくことがいかに大切であるかということを述べたものでございまして、それがどのような経営類型のもとで実現さるべきであるかということを申し上げておるわけではございません。 将来、技術革新を初めとして経営条件というものがいろいろと変わってくるだろうと思いますが、そういう中で単一経営を志向していくのか複合経営を志向していくのか、あるいは地域複合農業を志向するかといったようなことにつきましては、今後、地域別に、あるいは作目別に検討を詰めていくべきことであって、一概に地域複合農業を否定しておるものではございません。 それから第三のお尋ねは、土地政策価格政策について欠如しておるのではないかという趣旨のお尋ねであったかと思いますが、小冊子にまとめてございますのは、限られた紙数でございますし、技術論的なアプローチでもって農業の生産性の発展をいろいろと申し上げておるわけでございます。生産性の向上のためには規模の拡大が必要であろうと、あるいは技術革新が必要であろうと、あるいは基盤整備が必要であろうと、そういうことをいろいろ申し上げておるわけでございまして、そういういわば認識を表明しているものでございまして、経営経済的な観点からいたします裏づけにつきましては、今後施策の具体化の段階で十分に取り組んでまいりたい、生かしてまいりたいと考えておるところでございます。 それから、浅耕、化学肥料の転換についてのお尋ねであったと思いますが、農業にとりまして高い収量を維持してまいりますためには、深耕と堆肥の増投による地力の培養が最も重要であることはもう申し上げるまでもないことでございます。堆肥の増投につきましては、従来土づくり運動が実施をされておりますが、これをさらに強化をしてまいりまして、生産の増強と安定化が期待をされるわけでございますから、今後、大規模畜産専業経営の厩肥や麦稈、あるいはもみがらでありますとか、そういったものの活用可能な資材を十分に生かしてまいらなければならないと考えておるところでございます。 耕種農家と畜産農家との結合によりますそのような資源の利用の推進、あるいはまた地域ごとに、厩肥でありますとかバークでありますとかチップでありますとか、そうしたものの農外の資源による組織的、大規模な堆肥の生産というものを各地で展開をしていくことによりまして、堆肥の資源の量的な確保というものは十分に可能であると考えておるところでございます。 堆肥の投与につきましても、性能の高い農業機械の導入によってそのことは可能でございますし、深耕とあわせて地域ぐるみでの土づくりの運動、組織というものを強化をし、集団的に技術的な対応をしていくならば、効果的にそれを推進していくことができるであろうと考えておるところでございます。 それから小規模土地改良事業についてのお尋ねでございましたが、本県における中山間地帯の耕地は、全耕地面積十五万ヘクタールのほぼ三〇%にも達しておるわけでございまして、中山間地帯の特性を生かした農業開発を進めることがきわめて重要であるという認識をいたしておるわけでございます。 そういう中山間地帯の耕地は、申し上げるまでもございませんが、地形的な条件からなかなかその整備には経費がかさむわけでございまして、国が定めました採択の基準に満たない面積の小さい団地が多いわけで、従来から農村総合整備事業でありますとか、あるいは新農構の事業でありますとか、そうした各種の補助事業あるいは単県の補助事業で整備を進めてきたところでございますが、さらに中山間地帯の土地基盤整備の一層の促進を図ってまいりますために、従来から国に対しても新しい助成制度というものを要望してきたわけでございますが、今後ともできる限りその創設の要望をし続けてまいりたい、このように考えておるところでございます。 それから、県独自の価格保障制度についてどう考えるかというお尋ねでございました。 農産物の価格安定政策というものは、全国的な需給調整政策の一環として一体的に運用されて初めて実効が上がるということでございましょうし、国の政策としてそういう観点から実施をされておるところでございまして、現在主要な農産物につきましては、ほとんどすべて国のそういう制度が設けられておるところでございますが、国の価格安定制度そのものが確立をしておりません地域に特化している農産物、たとえばイグサのようなものでありますとか、そうしたものにつきましては単県で対応をしておることは御承知のとおりでございます。したがいまして、今後とも国の制度の拡充について要請をいたしてまいりますとともに、加入の促進でありますとか、そういう制度の積極的な活用を図って、本県農産物の価格の安定に努めてまいりたいと考えております。 それから、自由化反対の問題について最後にお尋ねでございました。 現在問題になっている牛肉でありますとかオレンジでありますとか、これは本県の農業にとっても最大の当面の問題であって、輸入自由化等につきましては絶対に認めることができないと、私も折に触れてそういうことを申し上げておるわけでございます。 私も、県民の御理解と御協力をいただきながら、県議会や関係農業団体の皆さん方とも御一緒になってこの方針を貫くように努力をしてまいりますが、今後ともさらに、全国知事会でありますとか、九州知事会でありますとか、あるいは肉用牛生産県の十九県で組織をしております肉用牛生産振興対策協議会、あるいは全国ミカン生産府県知事会――これは熊本県の知事が会長ということになっているわけでございますが、そういう場におきまして、できる限り政府なり国会なり関係機関に対しましても、自由化、枠拡大の阻止というものを強く訴えてまいりたい、このように考えておるところでございます。 以上、お答え申し上げます。  〔井上栄次君登壇〕 ◆(井上栄次君) いまお答えをいただきましたけれども、どうも歯切れが悪いんです。知事、恐らく自分でこれを丁寧に見ておられないんじゃないですか。新昭和研究会というのはどういうグループか知りませんけれども、恐らく評論家たちの集まりじゃないかと思います。どういうメンバーか、お尋ねは控えたわけですけれども。 それで、いまお答えのように、実際に熊本農業を発展させる上では、こういう認識やこういう路線ではだめなんです。これを実際に適用すると大変なことになってしまう。生産力は上がる、高収量の農産物は幾らでもできる。しかし、そこには農民不在、農村自体がいまよりもっと荒廃してしまう。大企業的なそういう農家は幾つか残るでしょう。しかし、兼業農家は離村を迫られ、中小農はなくなってしまう。こういうコースにこれはなっているわけです。このことを日本の財界は望んでいるわけです。裸で外国の農産物と太刀打ちさせようと。農業には金がかかるから、もう引き合わない農業はやめて、アメリカさんと長期安定契約を結んで食料を確保せと、これがいまの臨調の考えであり財界の考え方です。ややそれに近いような考え方をこの新昭和研究会は持っている。それを署名入りで「細川護熙」としてパンフレットをお出しになった。それをそっくり今度は知事になってこれを採用されると困るから、わざわざこの議場で申し上げているわけです。だから、知事ですから、あなたは今度は。単なる候補者でもなければ一細川護熙でもない。熊本県農業をどうするかという重責を持っておられるんですから、このことを私は本当に強調したいと思うわけです。 実を言うと、話が長くなりますけれども、もう農政部は本当は弱っているですよ、これ。このまま実行したら大変なことになる。農業試験場やなんかで部分的にあるのは知っています。しかし、それを一般化する手法が、手続が全然抜けているんですよ。認識だけ示したとおっしゃるけれども、もしあなたの考えでいくなら、この八〇年代熊本県総合計画の農業面は、もう全面的に改定せにゃいかぬですよ。ここにコピーを取ってきているんですけど、大体倍なんて書いてないですよ。一二五%から一四七%、十年先ですよ。そういうことを一々申し上げることはやめますけれども、ぜひひとつ熊本の農業を守るためにも、県民の幸せを守るためにも、ひとつ認識を改めてがんばっていただきたいと思います。 次に、水俣病問題についてお尋ねをいたしたいと思います。 知事は、就任後の記者会見で、水俣病は県政の最重要課題と言われ、また本会議の答弁でも、水俣病問題の解決には死力を尽くして取り組みたいと言われました。ぜひそのような心構えで、今度は駆け足でなく時間をかけて現地を歩き、患者とも胸襟を開いて話し合い、あなたの目と耳でしかと水俣病の現状を確かめ、抜本的な解決のために全力投球していただくようまず最初にお願いをしておきます。 私は、新しく知事におなりになったあなたに、水俣病についての基本的認識について伺いたいと思います。 第一に、あなたは水俣病とはどのような問題であると認識しておられますか。 水俣病は、言うまでもなく世界最大の水銀汚染公害であります。その被害は、あの恐るべき原爆にも匹敵し、人類が経験した最も残虐、悲惨な公害事件であり、チッソの飽くなき利潤追求の結果引き起こされた地域社会の破壊でもあります。私は、水俣病の本質をこのようにとらえる必要があると思いますが、知事の基本認識はいかがでしょうか。 第二に、水俣病の発生拡大と行政の責任についてどう考えておられますか、お尋ねします。 御承知のように、現在、国、県、チッソを被告とした水俣病第三次訴訟が進められております。一体、患者はなぜ三たび裁判に訴えざるを得なかったのか。水俣病が公式に発見された三十一年五月から、すでに四分の一世紀以上が経過しますが、この間、国、県は、水俣病の発生、拡大を防止するための法的拘束力を持つ実行措置を何一つとらなかった、このことを患者は強く糾弾しているのであります。そしてこの第三次国賠訴訟を通して、国、県の加害責任を明らかにし、水俣病の発生拡大を防止するとともに、被害住民の完全な救済と恒久対策の確立を求めているのであります。 国、県は、被害発生の事実が確認されると同時に直ちにあらゆる法的権限を駆使して可能な限りの防止策を講ずべき義務があったのであります。その際考えられる有効な規制措置とは、第一に、魚介類の捕獲及び販売の禁止措置であり、第二に、チッソ水俣工場の排水の浄化ないしは排水停止措置でありました。国、県は、食品衛生法、漁業法、水産資源保護法、熊本県漁業調整規則などの法令や規則に基づく権限を行使すべき義務があったにもかかわらず、これらを怠ったのです。その結果、水俣病はさらに恐るべき拡大を見たのであります。このように、水俣病発生における国、県の行政責任はきわめて重大だと考えますが、いかがですか。あなたの見解をお聞かせください。 第三に、知事は、水俣病の根本的解決の前提となるべき住民及び環境の総合調査についてどのように認識しておられますか。世間の一部には、水俣病はもう終わったかのように言う人もいます。しかし、汚染の実態と被害の全貌解明、認定促進と患者救済、治療法の解明と日常の健康管理、水俣湾のヘドロ処理を初めとする環境の復元、水俣・芦北地域の復元再生、さらにまた国によるチッソ県債の一〇〇%保証問題など、どの課題をとってみても根本的な解決はこれからであります。 特に、被害の実態解明について言えば、チッソが最も多量の水銀をたれ流した昭和八年ないし十五年の間に、不知火海沿岸一帯に居住した住民は約二十五万ないし二十六万人に上ります。熊本大学の研究者は、一割としても三万人近い潜在患者が存在すると指摘しています。水俣病は、その規模の大きさ、悲惨さにおいて世界的に他に例を見ない事件でありますが、いまだに被害の全貌すら明らかにされていないという点においても、また他に例を見ないものであります。不知火海沿岸全住民の健康診断、海流の調査、不知火海全域の汚染度の総合的、系統的な調査を国、県が責任を持って実施すべきであると考えますが、いかがですか。沢田前知事も、その必要性を本議場でしばしば認めた事実があることを申し添えておきます。 次に、患者救済の問題についてお尋ねします。 三月三日現在の認定申請者は九千三百二人、その内訳は、認定患者千五百六十四人、うち死亡者四百九十二人、棄却者三千九十九人、未処分者四千六百三十九人となっています。この未処分者の中には、認定申請してすでに十年もたつ人が九人も含まれています。九年の人は実に三百二人もいます。八年から数えると六百人余りおります。しかも、これらの人たちは、いずれも保留者です。法では迅速な救済がうたわれ、認定のおくれは行政の怠慢であるとする不作為違法の判決が出されてから今日に至るまで――そういう状態までありながら、なお現状はこうであります。 私は、去る四日、水俣市袋湯堂に行き、その前日の午後四時半ごろ自宅の裏山で首をつって自殺された水俣病患者吉永松男さんの霊を弔ってまいりました。吉永さんは、四十八年六月十三日に申請し、これまで三回も保留になったままでした。姉のチカエさんの話では、吉永さんはこの数年、手足のしびれ、足のふるえなどを訴え、入退院を繰り返していたということです。体が悪いので仕事にもつけず、四十二歳の若さでやむなく生活保護を受けねばならなかった彼は、申請後十年もたち、その上三回も保留になったままの状態に、言いようのないいらだちと悲しみを抱きながら悶々と一日一日を送っていたと言われます。死亡した翌日の朝、死体は熊大病院で解剖に付されました。幸いにして冬だからよかったんです。夏なら解剖はできなかった。私は、吉永さんはきっと水俣病として認定されるに違いないと思います。 最近、非常に残念なことですけれども、死後解剖による認定がふえてまいりました。なぜ死ななければ水俣病と認定してもらえないのか。これ以上の人権侵害はないと思いますが、知事いかがですか。 吉永さんを弔問した後、同じく長期保留者の一人である袋茂道の村枝計さん、七十九歳のおじいさんを訪ねました。典型的な漁村部落である茂道は患者多発地区で、これまですでに百九十五人の認定者が出ているところです。百九十五人という数字は、水俣市全体の認定者八百六十五人の二二%に当たります。部落の中を回ってみると、ほとんどの家庭から認定者が出ており、村枝さんは「福茂会という茂道の老人会六十五人のうち、認定されていないのは、わしら夫婦を含め四人しかいないのですよ」と言いました。そして続けて村枝さんは「この部落に長年住んでいて一人の認定者も出ていない家庭に対しては、部落民がむしろ変な目で見るんです。こんな逆な現象は、よそでは考えられないことでしょうね」と苦笑いをしておりました。 村坂さんは、水俣市の丸島で父親とかまぼこ製造を三年ほどやり、その後、茂道に移住してすでに三十五年になります。チッソに働きながら、自分でも小舟を持って、ほとんど連日のように水俣湾に釣りに出かけていたそうです。もちろん魚は大の好物で、いまでも刺身なしでは済まないと奥さんが言っておられました。最近は、手足のしびれ、ふるえが一段とひどくなり、着物のボタンかけも思うようにできず、構音障害も顕著になっています。私がおじいちゃんに「細川知事さんに伝えるから何か訴えたいことはありませんか」と聞きましたら、村枝さんは「十年は長いですよ。保留、保留で」と声をつまらせ「早く認定してください」と言われました。村枝さんはこれまで三回保留にされているのです。知事、三回も保留になるというのは、水俣病の疑いがあるからこそ棄却できずに保留にされているのであって、こういう人は当然とうの昔に認定になっていなければならない人たちです。 私は、長期保留者の速やかな認定を何度も何度もこの議場から訴えてまいりました。私はかつて、審査会を隠れみのにして認定をサボっているのではないかと沢田知事を追及して懲罰にかけられたことがありますけれども、そういうことがあった今日でもなお事態は改善されておりません。知事の御所見はいかがでしょうか。 御承知かと思いますけれども、昭和四十六年八月に出された環境庁の事務次官通知は「認定申請人の現在に至るまでの生活史、その他当該疾病についての疫学的資料等から判断して当該地域に係る水質汚濁の影響によるものであることを否定し得ない場合においては、その者の水俣病は、該当影響によるものであると認め、すみやかに認定を行なうこと。」と明記いたしております。熊本県も、昭和四十九年十二月に国に提出した水俣病認定制度改正に関する要望書の中で、一定の疫学条件に合致し何らかの神経症状を有する者は認定すべきであると明快な主張を行っているではありませんか。 医学的真理を追求する立場にある医学者が、水俣病であるのかどうか、黒なのか白なのか、このことを徹底して明らかにする上で、しばらく時間を置いて経過を見ながら、さらに検診を積み重ねることは当然あり得ることであります。しかし、医学的にはそうであっても、被害者救済の立場に立つ行政、すなわち認定権者である知事は、有機水銀の影響が否定できない場合には、これらの人々を速やかに認定すべきであるというのが、この四十六年次官通知の最大の眼目であるのであります。そういう意味では、医学的な保留はあり得ても、行政的な保留は本来あり得べからざる問題なのであります。この点を区別しないで、専門医学的追求と患者救済行政を完全にダブらせて、四十六年次官通知の内容と趣旨を事実上骨抜きにしてきたところに認定問題の最大の問題があるのであります。 そこで、今後の認定に当たっては、この四十六年次官通知を厳守するところで言明していただきたいと思いますけれども、いかがですか。明快な御答弁を期待します。 次に、検診問題ですが、毎月百五十人検診・百三十人審査体制が現在崩れてしまいましたが、その主な原因は何だとお考えでしょうか。患者の検診ボイコットも一部に出ているようでありますが、そうなった背景についてどう認識されておりますか。具体的に二点について質問いたしますので、それぞれ簡明にお答えください。 第一は、検診現場における問題です。疫学調査員、看護婦、検診医等と患者との信頼関係が失われてずいぶん長くなりますが、いまだに改善いたしておりません。これを改善して相互の信頼を回復する方策はないのでしょうか、お示しいただきたいと思います。 第二は、県が疫学調査に従事する者のために作成した「疫学調査要領」というのがあります。これは、その作成の過程と内容において、患者に強い不信と疑惑を与えています。去る二月十八日、水前寺共済会館で行われた水俣病行政不服審査会をたまたま傍聴した私は、そこで実施要領に対する患者たちの不信の実態を知らされて大変驚きました。詳細は省きますが、大学の公衆衛生学教室などの疫学専門家は関与しておりません。そういう疫学調査実施要領に、どれだけの権威と科学性があるかということです。また、なぜこの実施要領を部内用ということで――患者が見せてくれと言っても秘密扱いにして、こうして渡すかと思うと、メモでもとろうとするとすぐ引き取る。こういうようなことをなぜやるのでしょうか。私は、患者の不信を増幅するようなことはやめて、患者の要請があれば実施要領を公表すべきであると考えますが、いかがですか。情報公開が叫ばれている今日、水俣病問題についても秘密があるということは、いかにも理解に苦しむものであります。秘密があってよいはずはありません。実施要領公表についての知事の所見を求めるものであります。 最後に、チッソ県債について。議会の終了直後、環境庁長官と会われる知事にお尋ねするわけですけれども、知事は、県議会が全会一致で要求している国の一〇〇%保証について、これを全面的に支持されますか。善処するとか、誠意を持ってやるとか、あるいは過重な負担はかけないとかという現段階の政府言明や文書ではなく、一〇〇%保証ということについて知事自身どのようにお考えなのかをお答えいただきたいと思います。  〔知事細川護熙君登壇〕 ◎知事(細川護熙君) お答えいたします。 水俣病問題について幾つかの点を挙げてのお尋ねでござ いました。基本的な認識はどうかというお尋ねが第一点でございましたが、水俣病問題は世界史上でも例を見ないまことに悲惨な事件でございますし、二度とこのような事件を許してはならない、そういう観点に立ちまして、従来歴代の知事さん方も県政の最大の重要課題として取り組んでこられたわけでございますが、私もあらゆる努力を傾けて取り組んでまいりたいと、このように考えておるところでございます。特に、四千六百人余りに上られる未処分者の方々の認定業務の促進につきましては、国を初め関係機関とも十分に協議をして最善を尽くしてまいりたいと考えておるところでございます。 それから、国、県の行政責任についてどう思うかというお尋ねでございましたが、水俣病問題は過去二十数年来にわたる問題でございまして、県としてもこの問題の処理に当たりましては、そのときどきにおきましてできる限りの努力をしてきたところでございまして、御質問の事柄に関しましては、現在熊本地裁で国家賠償請求事件として争われている訴訟の主要な争点でもございますし、いまの時点で見解を申し述べることは差し控えさせていただきたいと思います。 それから第三のお尋ねは、不知火海沿岸総合調査の実施についてどう考えるかというお尋ねでございました。 昭和四十六年から四十九年にかけまして水俣湾周辺地区住民健康調査を実施いたしましたほか、市町村におきましても独自に調査を実施しておるわけでございます。今後もこのような調査を県で実施するとすれば、健康調査には多数の専門医師を必要といたしますし、このことが直接法律に基づく認定業務にも影響を与えるというようなこともございますでしょうし、現実的には厳しい事情にあるわけで、現在のところは認定業務の促進ということに全力を挙げてまいりたい、そのことが先決であるというふうに私は考えております。 それからその次のお尋ねは、患者の救済についてのお尋ねでございました。 第一点は、四十六年の環境庁事務次官通知の厳守について、どのように認識をしているかということでございました。水俣病の認定申請に係る審査、処分に当たりましては、法令の通達に従って公正に実施をしておるわけでございまして、今後ともこの基本姿勢を踏襲してまいる所存でございます。 それから第二点は、長期保留者の速やかな認定をというお話でございました。迅速な救済という法の趣旨にかんがみて、申請者に対する処分を早急に行い、申請者の方々の不安を一日も早く払拭したいという気持ちは私も全く同じでございます。就任早々、申請者団体の方々ともお会いをいたしましたし、明水園に参りましたのも、そういう気持ちの発露からでございますが、認定業務の促進を図ってまいりますために、近く関係省庁もお訪ねをして、改めて理解と御協力をお願いしたいというふうに考えておるところでございます。 それから検診の改善についてのお尋ねでございました。検診医の先生方におかれましては、申請者の症状を的確に把握をするために誠心誠意御努力をいただいておりますことを御理解いただきたいと思います。検診センターの職員の方々も心して懸命に努力をしていただいておるところでございまして、今後とも御指摘のあった点にも十分配慮して業務の遂行に当たっていただくようにしてまいりたいと考えておるところでございます。 それから疫学調査の実施要領のことについてお尋ねでございましたが、水俣病であるか否かの判断につきましては、有機水銀曝露の事実がなければならないわけでございます。認定申請者に係る疫学調査は、この有機水銀曝露の事実を明らかにする目的で行われるものでございますが、疫学調査実施要領は、この疫学調査の正確性、統一性等を担保する目的で、あくまでも執務上の指針的な資料として作成をされたものでございまして、いわば純粋に内部資料であって外部への公開を予定しているものではございませんので、公開することは差し控えさせていただきたいと考えております。 それからチッソの県債についてのお尋ねでございました。 チッソの県債は、御承知のように、患者に対する補償金の支払いに支障を生ぜしめないため、あるいはまた水俣・芦北地域の振興に資するためにチッソに対して行っている金融支援措置であることは御承知のとおりでございますが、同社の経営の現状からして、たび重なる県債の発行に対する保証措置につきましては、国に対して何とか一〇〇%保証を約束してもらいたいということで要望を重ねてきておるわけでございます。私も、そういうことでたびたび要望を申し上げておるところでございまして、先月の二十六日には、県選出国会議員の方々と県議会の公害対策特別委員会の方々との間で意見の交換もなされましたし、私も改めて認識を深くしたところでございますが、今後の対応につきましては、そういう御意見を十分踏まえて、国と十分協議を重ねて納得のいく結論を得たいと考えておるわけでございます。今後とも議会の皆様方の一層の御支援をお願い申し上げたいと、このように考えるところでございます。  〔井上栄次君登壇〕 ◆(井上栄次君) 水俣病問題についてのお答えをいただきましたが、周辺地域全体の総合調査問題については、これはその答弁は、もちろん執行部の職員が書いたんだと思うんですけれども、いつも同じような言葉を言っているんですよ。あなたにちょっと認識していただきたいんですが、現在のところは認定業務促進に重点を置いて、それを先決問題としているので、手が回らないという趣旨の答弁を繰り返し言っているんです。これは、いま藤本副知事うなずいておられるけれども……。そういうことをずうっと言い続けて、それじゃ認定業務が促進されているかというと、一つも促進されておらぬことは、さっき言ったとおりです。数字が示したとおりです。もう言いわけだけをして、必要性を認めながらしないというところに行政の怠慢があるんです。水俣病が解決しないのは、ここのところにあるんです。知事は、本当にそんなのを棒読みしないで一遍書いたやつを――本当に認定促進が先決であって、これはどうしても手が出せぬものかと、これぐらいは聞いてほしいと思うんです。 それから四十六年次官通達、これも詳しいことはもう時間がありませんから言いませんが、五十三年にも次官通達が出た。それにもいろいろ出ているわけです。そしてすべてその土台は四十六年の次官通達の延長であって、いささかも異ならないとこう言っているんです。ところが、実際に認定の実績を見ればすぐわかるように、しかも文章自体が、単一の病気であっても末端の神経障害があってもそれでいいとしてあるやつが、今度複合的に何かがついていなきゃだめだと次々に変わってきているんです。だから問題になっていることを、これも勉強してください。 それから長期保留者について一生懸命やると、もうぜひ言うてください。これは沢田さんも、もうこれをせにゃいかぬと言って、一生懸命になって審査会にも訴えておられたわけです。検診現場の先生方を非難しているわけじゃありませんけれども、患者との信頼関係を取り戻さない限りなかなか進みません。お答えを了としますからよろしく。 そして実施要領のことですけれども、これは、見せてくれと言うたら見せるぐらいのことをしないと。その指針、要領によって疫学調査を受けているわけです。それに患者は不満があるんですから、どんなことが書いてあるのかということを聞いたら見せるぐらいな、そういうオープンな行政でないと本当に水俣病は進みませんよ。 それから最後に県債のこと。知事も申されましたように二月二十六日、国会議員の先生とわれわれと懇談しました。一番心配なのは、環境庁の政務次官になっている福島譲二先生、この方が、どちらかというといまのままでいいではないかと、こういう考え方なんです。しかも、この人は田中派なんです。それだからもう一段と困るわけですよ。だから、ここのところをだめ押ししているのは、そういう意味もあるから。知事ですから、百遍も言いますけれども、もっと知事になったら、県議会がこぞって全員一致で一〇〇%でなきゃだめだ、六月の県債は保留か否決するというふうに自民党幹部も言っているくらいだから、ここのところを性根を据えてやっていただきたいと思います。 次に、教育問題についてお伺いします。 知事は、所信表明演説で、新しい教育立県を目指すとして、幼児期から高等学校までの間に、高い資質と能力を持った人間性の涵養と国際的な感覚を備えた個性ある人材の育成を表明されました。しかし、今日重大な社会問題になっている非行、暴力問題を考えるとき、教育にいま一番求められているのは、すべての子供に基礎学力、体力、情操をつけさせることであり、そのために行政として何をやるべきかを考えることです。 特に、そこで問題にされなければならないのは、一クラスの定員を減らす問題です。現在の四十五人学級では、どうしてもすべての子供に先生の手が行き届かない。国会でも全会一致で四十人学級にすることが先議されていながら財源がないということで実施は遠い先に延ばされています。知事は、子供のうちから国際感覚を身につけさせるために、すべての県内の小中学校に外国人教師を一人ずつ配置したいなどということを言っておられるようですが、そんなことで簡単に国際感覚が身につくのかなあという疑問もありますけれども、それはそれとして、いま父母、子供たちが一番求めているのは、とにかく学校の勉強がわかるように丁寧に教えてほしいということです。同時に、教師にすれば、すべての子供に手が届くように教えてやりたいということであります。そのためにはクラス定員を減らすことがどうしても必要になります。全校への外人教師配置の意気込みと財源のめどがあるのであれば、国が実施する前に県独自ででも四十人学級を実現してもらいたいというのが私の気持ちであり、また県民多くの要求でもあると思いますが、いかがでしょうか。知事の御所見を求める次第です。 教育問題で、ほかに二、三具体的な問題で教育長に質問します。 一つは、先生たちの研修の問題です。 先生たちに教師としての専門的技量をみがいてもらいたい、自信を持ってわかりやすく子供たちに教えてもらいたいというのは、すべての親の願いであります。そのために研修はどうしても必要です。ところが、本県では、教職員組合や民間の教育研究機関の研修に先生たちが参加することを県教委がブレーキをかけているということが起こってトラブルが起こっております。いまや教育は、やれ教育委員会だ、やれ教組だと対立したり、それぞれが別個にやれるような状態ではありません。教育に携わるすべての関係者が心を一つにし、統一して当たらなければ解決できない状況にまで追い詰められているというのが、これがいまのみんなの常識です。県でも、ぜひこのような立場で、先生たちの自主的な研修権を認め、昨年までとっていた義務免、特別休暇の措置をとるなど積極的な対応をしていただきたいと考えますが、いかがでしょうか。 二つ目は、同和教育についてであります。 私は、何度もこの議場から、任意の運動団体、それも教育や行政に暴力的に干渉し、利権あさりを事としているような解放同盟の誤った解放教育、偏った教育を公教育の中で行うべきでなく、特に強姦殺人事件でしかもいまだ係争中の事件を学校教材に持ち込み、一方の側の見解を絶対のものとして子供たちに教えることの非教育性を批判してまいりました。しかし現状は一向に改めておらぬのです。いまもって狭山事件が重要なテーマとして取り上げられているし、政治集会へ先生が子供たちを動員することも依然として行われております。そこには県教委の姿勢、意向というものが大きく影響していると思っております。 先ほど申しましたように、組合や民間教育団体の研修には年休参加しか認めない県教委が、解同、県同教の同和研修会となると、特別扱いで出張扱いの上、日曜祭日の研修の場合は振りかえ休日まで認める、こんな差別的な取り扱いを平然としてやっている。学校によっては、校長が先頭に立って、割り当て動員的に先生たちを参加させているようなところさえあると聞いております。これでは解同、県同教がのさばるはずですし、同和教育がゆがんでくるはずです。これは、理由のない部落差別、根深い偏見を助長こそすれ、完全解放や国民融合に逆行するものと言わなければなりません。改めて、解同、県同教の誤った解放教育への追随をやめ、真に憲法と教育基本法にのっとった自主的、民主的で公正な同和教育を確立すべきことを強く求めます。 以上、二点について教育長の答弁を求めます。  〔知事細川護熙君登壇〕 ◎知事(細川護熙君) お答え申し上げます。 教育問題のお話でございましたが、私に対するお尋ねは四十人学級の実施についてどう考えるかということでございました。 御案内のとおり、国の第五次学級編制改善計画は、国の行革等によりまして凍結をされておりますために、現在の学級編制は、一部の児童減少市町村を除きまして四十五人で編制されておるわけでございます。実際の編制状況を見ますと、学級総数の七割程度が四十人以下で編制をされておりまして、また一クラス当たりの平均児童生徒数は、小学校の場合で約三十一人、中学校の場合で約三十八人になっておるわけでございます。 四十人学級を実施するとしますと、市町村における校舎の新増築というものも当然必要になってくるわけでございますし、教職員の確保もしてまいらなければなりませんし、クラスで大体六百クラスぐらいふやさなければならぬ、教職員の数も七百人以上ふやさなければならぬ、大体人件費だけで四十億以上かかるということでございますから、そういう事情を考えますと現在単県費で実施をすることは適当ではないというふうに私は考えておるわけでございます。  〔教育長外村次郎君登壇〕 ◎教育長(外村次郎君) 教育庁所管問題につきましてお答え申し上げます。 まず、職員研修の服務取り扱いの件でございますが、職員団体が主催する教育研究集会に参加いたします教職員の服務等の取り扱いにつきましては、ただいま御指摘がございましたように、県立学校につきましては五十七年九月七日付の通達、また小中学校につきましては五十七年十二月二十七日付の通知によりまして、従前の取り扱いを改めたところでございまして、結果として年休扱いとならざるを得ないのでございます。 職員団体主催の教研集会に参加いたしますことは、職員団体活動を行うことになるわけでございまして、従来の取り扱いは、地公法五十五条の二第六項及びこれに基づくいわゆる制限条例――正確には熊本県職員団体のための職員の行為の制限の特例に関する条例でございますが、これに抵触するわけでございまして、そういうことで改めたものでございます。 一般的に教師の自主研修は職務遂行上有益でございますが、それが職員団体活動として行われる場合には当然法の規定に従って対処せざるを得ないわけでございますので、御了解いただきたいと思います。 次に、同和教育の研修の関係でございますが、これはもとより学校の同和教育推進のために、教師自身が正しい理解と心構えを身につけていくということ、そして教師みずからの主体的、積極的な取り組みということが非常に大事でございます。そういったことで、差別の実態の中からいろいろ学び、また自分たちの生活を振り返って差別をなくしていく力を育てていくと、こういう研修は大変大事なことでございます。 しかしながら、以前魚住議員の方からも御質疑がございまして、それにお答えしたとおりでございますが、狭山問題を教材化するに当たりましては、児童生徒の発達段階への配慮はもとよりでございまして、また事件そのものを教育的な配慮不十分なまま、なまの状態で持ち込むことは、教育の素材としては不適当であると考えております。特に、教育及び公務員としての中立性を逸脱することなく、さらに職員の共通理解等慎重な配慮のもとに教材は考えられるべきものと考えます。御批判の点につきましては、そういうことがないようさらに指導してまいりたいと考えます。 なお、研修への参加についての校長の教員指導等につきましても、今後遺憾のないよう指導してまいりたいと考えます。 以上でございます。  〔井上栄次君登壇〕 ◆(井上栄次君) 知事におかれては、四十人学級に莫大な経費がかかるという御説明をいただきました。ただ、願わくは――マンモス状態になっている学校とかそういうのがいろいろあるわけです。もちろん設立は市町村立でやっているわけです、小学校、中学校の場合は。そういう場合に、もっと子供たちが十分先生から丁寧に教えてもらえるように、先生も行き届く授業ができるようなそういう実情を個個に見て、適切な教師の加配をするなど措置をとっていただきたいと、このように申し上げておきます。 また、教育長のこの教員自主研修の問題ですが、組合という名前がつくから違法になる、組合運動だと、こういう御説明であったと思います。それでは、長い間違法を重ねてきて、そのことはどういうふうになるんでしようか。当然気がついて、去年からこれはいかぬからと、こういうふうになった。自民党の筋から圧力でもかかったんじゃないですか。そういうことがいかぬのです。(「そんなことはない」と呼ぶ者あり)いいえ、実際そうなんです。そういうことはちゃんと、どこでもよその県で全部、熊本県みたいにやっているところは少ないわけです。そういうことが教育を混乱させ学校現場を混乱させるわけです。 時間がありませんから次に、少し早口になりますけれども、婦人問題、障害者の問題、老人医療の問題、駆け足で申します。 一九七五年の国際婦人年から、ことしは早くも九年目、「国連婦人の十年」の終期の八五年までわずか二年余になりました。平等、発展、平和の観点から、国はもちろん多くの県で行動計画がつくられています。本県でも、わが党婦人部の再三の申し入れを初め各婦人団体の要請のもとでやっと最近、婦人問題基本計画がつくられました。しかし、その内容は、ほとんど中央の引き写しで具体性に欠け、今後婦人問題に意欲を持って立ち向かう指針とするにはきわめて不十分と言わねばなりません。十年の間に計画を立て実現させるとなっていますので、今後東京その他で実施されたように、広く婦人の意見を聞き、一日も早く熊本県の具体的な行動計画をつくり実動に移していただきたいと思います。他県ではすでに行動計画ができて実働に入っているところもあると聞いています。本県のこの立ちおくれの原因は、県の窓口と体制の弱体にあるのではないでしょうか。 わが党婦人部が、婦人の地位向上と真の男女平等の実現のために体制の強化をと、直接当時の沢田知事にも要請を続けた結果、一昨年七月、婦人問題を総合的に取り扱う独立した窓口として生活婦人課が設置されました。現在、隣の宮崎県でも婦人課を置いております。しかし、熊本県では、わずか一年で姿を消し、現在独立した課はなく、婦人問題推進の事務局としては、交通安全青少年生活婦人総室といういかにも長たらしい名前の課に押し込められ、陣容も弱まっております。教育、保育、社会、労働等幅広い分野にわたる婦人問題が、これでさばけるはずはありません。母と子の命を守る問題一つ取り上げても、昭和四十三年以降、女性の有病率が高まり、異常出産もふえていること、乳幼児死亡率、新生児死亡率が全国平均をはるかに上回っていることを考えると、子供を生み育てる母性の保護と、子供を健やかに育てることが関連する問題として抜本的、総合的に進められるべきです。 重要な婦人問題に取り組むに当たっては、一日も早く婦人問題を専門的に、しかも総合的に取り組む独立した課の設置が急務であります。細川知事の英断を期待するものでありますが、決意のほどをお聞かせください。 次に、障害者問題について要望と、一点お尋ねをいたしておきます。 昨年からことしにかけて、熊本市民病院での障害者の歯科治療や、黒石原養護学校の一学級新設、時間延長等、その実施に大喜びしている関係者の姿を見るとき、全面参加と平等の観点で障害者対策を強めることの急務を改めて痛感いたしております。 この立場に立って質問と要望をするわけですが、これは質問ですけれども、第一に、障害児の早期発見、早期治療、訓練の問題です。 障害を早期に発見し、治療、訓練すれば後遺症が少ないことは、滋賀県大津市の実践で証明されています。本県でもそのための調査費が計上されていますが、新しい障害者をつくらないためにもその対策の実施が急がれます。何をどのように調査され、その上に立って対策がどう具体化されているのかをお尋ねします。 第二、第三は、要望ですから要点だけ申し上げますけれども、この養護学校、新年度で二十人一クラスですけれども、二十四人入学希望があって四人入れぬというような状態があります。定員、諸設備等整備されるよう強く要望いたしておきます。 また、障害者の就職、仕事の問題ですけれども、これが十分できておりません。いま民間で、お母さんたちが不自由な子供を体に背負いながら、将来が心配だということで毎日廃品回収などを続けて資金づくりをしながら、共同作業所などをつくる運動をしております。こういうものについて行政のお手伝いが必要なんではないかということで、これをぜひお願いしたいと思います。 最後に、老人問題ですけれども、答弁の時間はないようですが、大変な状態です。私も七十一になって、二月一日病院に行って「老人手帳ありますか」それから「四百円」と言われて、改めて痛感したわけですが、これは単に費用だけの問題ではなく、診療の内容にもかかわる重大問題です。 ぜひ知事に、老人医療の問題、有料化されたのをもとに戻して、県だけでも無料化を継続していただきたいと思いますけれども、この点の御所見を求めて降壇いたします。 ○議長(八木繁尚君) 知事細川護熙君。――知事に申し上げます。残り時間が少なくなりましたから、答弁を簡潔に願います。  〔知事細川護熙君登壇〕 ◎知事(細川護熙君) お答え申し上げます。簡潔に申し上げます。 確かにおっしゃるように、婦人行政の問題につきましては、大変長たらしい名前のところで所管をいたしておるわけでございますが、これは行革を進めていく中で機構全体の見直しを進めていきます際に、県民生活行政としての総合的な調整機能、あるいは関係団体の類似性、そうしたものに着目をして機構の統合がなされたものでございます。 二月には、基本計画も御承知のように策定をされたわけでございまして、今後は、その基本計画に基づいて婦人行政の充実に努めてまいる所存でございまして、決して婦人行政を軽視しておるものではございません。 新しい課の設置につきましては、これは行政は大変広範多岐にわたっておりますし、それぞれの問題について専門の組織をつくる、専門の課をつくるということは、いろいろ御議論もあろうと思います。先般も浦田議員の御質問にもお答え申し上げましたように、民間の有識者から成る審議会のようなものを設置して、いろいろ組織、機構等について検討をしたいということを申し上げておるわけでございまして、そういうところにおきまして今後御検討をいただきたいと考えておるところでございます。 それから老人医療の問題については、お話がございましたが、これは、お年寄りが健康に対する自己責任の考え方に立つとともに、医療費につきまして国民が公平に負担をするという基本的な考え方に基づいて、お年寄りの方々に無理のない範囲の額で、実際にかかる費用のごく一部を負担していただこうという趣旨で設けられたものでございまして、まだ制度も発足をしたばかりでございますし、今後、お年寄りの方々、県民の皆様方にもこの制度の趣旨を十分御理解をいただきまして、適切な老人医療、保健というものが確保できるように努めてまいりたいと考えておるところでございます。 ○議長(八木繁尚君) 衛生部長清田幸雄君。――答弁を簡潔に願います。  〔衛生部長清田幸雄君登壇〕 ◎衛生部長(清田幸雄君) 最近医学の進歩が著しいわけでございまして、障害者の発生防止、治療につきましては大変医療が進んでまいっておりますけれども、さらに障害者の早期発見から治療、リハビリテーションに至ります総合的な体制の確立が望まれているところでございます。 そこで、医療、福祉、教育等横の連携を密にしました一体となった対応をすることが必要であると考えておるわけでございまして、昨年の五月から、福祉、教育、衛生関係で連絡協議会を設置いたしますとともに、先進地の実情等を調査いたしまして、障害者のサイドに立ちました総合対策につきまして研究討議を進めておるところでございます。今後は、この調査研究を生かしまして、本県の実情に即しました対策を進めてまいりたいと考えております。 ○議長(八木繁尚君) 時間がありませんので終結いたします。 昼食のため午後一時まで休憩いたします。  午後零時三分休憩      ―――――――○―――――――  午後一時七分開議 ○副議長(井ノ上龍生君) 休憩前に引き続き会議を開きます。 北里達之助君。  〔北里達之助君登壇〕(拍手)
    ◆(北里達之助君) 自由民主党の北里でございます。今任期しかも今会期最後の一般質問の機会を与えていただきましたことを、同僚議員の皆さん方に厚くお礼を申し上げますとともに、執行部の皆さん方に明快なる御答弁をいただきますことをお願い申し上げて、早速質問に入らせていただきたいと思います。 まず最初に、長年の懸案となっておりました地熱発電の開発促進について、小国地方で県が調査を進めております地熱発電所の建設促進についてお尋ねをいたしたいと思います。 わが国は、総エネルギーのうち六四%程度を輸入石油に依存しておりますが、過去二回にわたります石油危機以来国を挙げて代替エネルギーの開発に取り組んでいることは御承知のとおりであります。国の計画によりますれば、石油の依存度を昭和六十五年度には約四九%、七十五年度には約三八%に下げる計画であります。この代替エネルギーの一つとして、地熱開発も大きく取り上げられ、全国で昭和六十五年には三百万キロワット、七十五年には八百万キロワットの地熱発電が計画をされております。現在、石油の需給緩和により石油価格の値下がり傾向があるのは承知しておりますが、長期的に見れば石油は有限であり、石油不足や石油価格の高騰が再来することは火を見るよりも明らかであります。したがって、代替エネルギーの開発は瞬時もゆるがせにすることなく、国、地方を通じて真剣に取り組まなければならない最も緊要な国家的課題であります。 幸いにして本県においては、小国地方で昭和二十六年から県企業局が地熱の開発調査を続けており、町当局及び地元住民も積極的に協力をしてまいった次第であります。県企業局においては、地質調査、重力探査、電気探査などあらゆる基礎調査を実施し、また岳の湯、はげの湯において九本の調査井ボーリングが行われております。ボーリングの調査結果では、地下二百五十メートルないし千五百メートルの地点から二百度前後の優勢な熱水が確認をされております。さらに、学識経験者によるこれらデータの総合解析の結果でも、有力な地熱貯留層の存在が確認され、比較的低廉な蒸気熱水が得られる見通しであるとの報告もなされております。 一方、地元住民として最も関心の深い熱水利用については、すでにウナギ、テラピアの養魚及び老人憩いの家への給湯並びに桑苗などの栽培も試験的に行われ、良好な成績を上げ、地元住民としては熱水利用による地域開発にきわめて大きな期待を寄せているところであります。また、町当局としても、熱水利用を町振興の大きな柱として、町の産業振興、民生の安定向上に役立てたいと考えているところであります。したがって、地元住民及び町当局としては一日も早く地熱発電所が建設されることを願っているわけでありますが、開発に当たっては、過去三十年間にわたる調査とこれに伴う地域とのつながり、県行政であることの信頼感に基づき、県が事業主体で地熱発電所を建設され、熱水利用については、県の指導援助により熱源の確保利用が円滑に行われることを強く要望するものであります。 地元のかかる強い要望を受け、積極的な取り組みと行動を示しておられる知事に対し、この際、大局的な見地に立ち、全国で初めての県営第一号地熱発電所の完成を日指して取り組まれるお気持ちはないかどうか、御所見をお伺いいたしたいと思います。  〔知事細川護熙君登壇〕 ◎知事(細川護熙君) お答え申し上げます。 地熱発電の開発促進についてのお尋ねでございましたが、わが国は、申し上げるまでもなく石油という決定的な弱点を抱えておるわけでございまして、その代替エネルギーの開発というものが資源のないわが国にとって国家的な最大の課題であるということで、県としても積極的に国とタイアップをして今後この代替エネルギーの開発を進めてまいらなければならない、そのように認識をいたしておるところでございます。 地熱開発につきましては、御指摘がございましたように、ただ単に発電のみにとどまらず、余剰熱水の地域に及ぼす利益の還元の問題でございますとかいろいろ種々のメリットがあるわけでございまして、県といたしましても、国産資源の有効な活用を図っていくという観点から、ほかの県に先駆けて、地元の大きな御協力をいただいて、また通産省とも密接な連携のもとに調査を進めてきたところでございまして、小国地方で進めてまいりましたいろいろな調査結果というものが、わが国の地熱開発に関する技術的な進展にも大変大きく寄与しておりますことは御承知のとおりでございます。 ただ、これを事業化してまいりますためには、まだ幾つか問題があるわけでございまして、調査井のボーリングで成功しても生産井の段階でもって――一本数億円もするわけでございますから、それで成功するかどうかリスクを伴うことも事実でございます。それから、生産井の経年変化に伴う寿命の予測が困難であるというような問題も御承知のとおりあるわけでございますし、また、この小国地方、小国地域特有の熱水中に含まれるシリカが原因になって還元井などが目詰まりをするというふうな技術的に未解決の問題もあるわけでございます。それから、公営の地熱発電についての料金制度が確立をされておりませんで、県営事業としてリスクを十分にカバーできるかどうかというふうな問題もあるだろうと思います。さらに、生産井のボーリングなり発電所の建設には相当な資金が必要でございまして、自治省とも相談をしておるわけでございますが、現在まで公営で建設をされた例もございませんで、起債の対象として認められるかどうか、まだ不明でございます。 県といたしましては、長い間にわたる調査で地元の方々にも大変お世話になってきたわけでございますし、何とか県営事業で発電所建設ができないものかということで検討しておるわけでございますが、いま申し上げたような問題がございますために、まだ率直に申し上げて決断をいたしかねておるというところでございます。 しかし、いずれにいたしましても、先ほども申し上げましたように地熱の開発は、国家的にもまた地域の開発振興からいたしましても、早急にかつ積極的に推進をしていく必要があるというふうに認識をしておりますし、通産省からも開発体制への移行を強く求められておりますので、そういう諸問題を勘案いたしまして、地元の意向も踏まえて関係者と慎重に協議をして、できるだけ早く開発についての結論を出したいと考えておるところでございます。  〔北里達之助君登壇〕 ◆(北里達之助君) ただいま知事から御答弁をいただいたわけでございますが、この地熱開発につきましては、資金面あるいはまた技術的問題でまだ未解決の分野があるというお話でございました。しかしながら、世界ではすでに十六カ国が地熱発電を行っており、日本におきましても、同地域のシリカ等の問題のあります大岳、八丁原を初め、全国的にながめますと、松川、大沼、鬼首、葛根田、森、杉乃井など、すでに八カ所で地熱発電所を建設して稼働しているわけであります。 その現状を見てみますと、知事がいま申されましたシリカの問題でございますとか、そういういろんな問題については解決ができる問題ではなかろうかと思うわけでございます。さらには、県が三十年間約八億円の巨額を投じまして行ってまいりました地熱調査も、そろそろ結論を出さねばならない県政上の私は課題ではなかろうかと思うわけでございます。どうかひとつ、今後知事の積極的な取り組みを期待いたしたいと思います。どうぞひとつよろしくお願いをいたします。 次の質問に移らせていただきますが、林業の問題について御質問を申し上げたいと思います。 私どもの生活にとりまして、緑があらゆる意味においてきわめて重要であることは、いまさら私が申し上げるまでもなく、もはや世の何人も疑うことのない真実であろうと思います。最近、政府におきましても「緑の日」の制定について論議されていることは周知のとおりであります。また「緑のダム」という言葉もよく聞くようになり、市民参加と申しますか、受益者参加という思想に基づく水源の森基金という制度が発足したところもあると聞いております。 これらのことは、単に森林が国民生活に必要な木材質、つまり構造材としての木材や燃料、あるいはまた工業原料としての木材を供給するという直接的な機能ばかりではなく、雨水の貯留、山地の崩壊防止、土砂流出の防止など国土保全的な機能、あるいは空気浄化や環境保全などの保健的な機能等が広く国民一般に浸透し、理解されつつあることのあらわれであり、喜ばしい現象であると思うわけでございます。 さて、わが国にはすぐれた森林計画制度があり、官民一体となってその適切な運営に当たってこられた結果、森林面積、蓄積ともに増加をしており、いまではおよそ二千五百二十八万ヘクタールの森林がありますが、そのうち九百九十万ヘクタールは人工林であり、うち六百五十万ヘクタールは成長量の大きな杉、ヒノキ林になっているということでございます。本県でも四十六万四千ヘクタールの森林があり、そのうち民有林の面積は三十九万七千ヘクタールであり、うち二十三万九千ヘクタールは人工林で、その大部分が成長量の大きな杉、ヒノキ林になっているのであります。 これは、従来の未立木地や原野あるいは低質な広葉樹林などが人工林に転換された結果であろうと思いますが、荒廃した土地や広葉樹林等に新しい人工林を育成するためには、多額の資金と労力を要することは周知のとおりであり林家の方々の労苦と熱意に対し心から敬意を表する次第であります。 御存じのように、一九八〇年にアメリカ政府が国家機能を動員して未来予測に取り組んだその成果として発表されました「西暦二〇〇〇年の地球」によりますと、将来、科学技術の進歩によって単位面積当たりの木材の生産性は世界的に向上し、森林自体の使用についても効率が著しく向上するであろうと考えられますが、全体的には人口増加や需要の増加あるいは工業化による開発などによって林地は減少し、木材供給力の低下を初め、水資源、環境などにも悪影響を与えかねないものとして大きく警告を発していることを考え合わせますと、わが国の現状は総体的には好ましい状況にあるということが言えると思います。 しかしながら、わが国の木材の供給構造は、当分の間、かなりの部分を外国からの輸入に依存せざるを得ないでありましょう。ただ、その中で次第に自給率が向上していくであろうということであります。このことは現実に統計の上にもあらわれ、最近の資料によりますと、昭和五十四年度の総木材需要量に対する輸入外材率は六九・二%であったのに対しまして、昭和五十七年度は六三・五%に低下する見込みとなっております。需要量全体が低下しておるとはいいながら、国産材の供給力が若干向上してきたことは否めない事実であろうと存じます。ただ、供給力が若干向上しつつあるとは申しながら、その現実はまことに厳しいものがあるのであります。 御承知のように、わが国の森林の多くは戦後の植栽によるものであり、杉、ヒノキ人工林の八〇%余りが、いまだ成熟していない六齢級以下、つまり三十年生以下の林となっております。現在供給量が増加している木材は、これらの林から産出されるいわゆる間伐材がその主体となっているわけであり、これらの木材は、形質ともに年齢の高い十分に成熟した林木の材に比べ、すぐれたものとは言いがたく、また生産上の収益性も劣るのであります。三十年生以下の林が八〇%以上も賦存するということは、これらの林を健全な状態に維持し、かつ将来優良な木材を産出するために、当分は間伐材が流通の主流を占めることが続くであろうし、森林の適切な管理という意味からして継続させねばならないのであります。 ところが、先ほども申しましたように、このような材は一般的に形質は決してよい方ではありませんし、比較的小径材になるのもやむを得ないわけですが、これらが最近の木材需要の不振により一段と安値に推移しているというよりは、需給が著しく減少し、各市場において毎回相当の不落、つまり売れ残りが出ているということであります。 本県の森林では、搬出施設はまだ相対的には未整備であり、このようなところで間伐を実行します場合、相当の負担を伴うのが常であります。最近のような需要不振が続きますと、森林地帯に属します山村ないし農山村にとりましては大きな経済的打撃となるのであります。また、単にそれが経済的打撃にとどまるばかりでなく、最も憂慮されますことは、そのために多くの森林の保育や管理が中断あるいは放置されかねないことであり、せっかくここまで長い年月と多額の資金、多くの労力を投入して育てられたものが、生産力を弱め荒廃をしていくということであります。まことに重大でゆゆしい問題であると言わざるを得ません。 本県は、全国屈指の木材生産県として、将来に向かってさらに豊富な木材資源の確保を図るべく森林造成に努めてきました。その結果、人工林率六〇%に達しましたが、六齢級以下のものが八五%を占めております。しかし、そのピークは五齢級でありますので、来るべき国産材時代はもうそこまで来ていると言えましょう。その国産材時代に備え、間伐等の保育事業を実施しながら森林資源の充実を図り、いかに伐期までにつないでいくか、これが林業家の最大の問題であります。 一方、木材生産量を見てみますと、昭和五十一年度九十七万五千立方メートルありました木材生産量は、五十六年度には六十七万五千立方メートルと漸次減少を続けております。それは主伐期に達しておる林が少なくなったことも原因の一つでありましょうが、住宅建設着工戸数の減少、価格の安値低迷により林業家の伐採手控えを招き、木材の需要に代替品がとってかわるという悪循環を繰り返し、さらに木材の需要を減少させている結果と思われます。いまこそ林業を救う手段は、小径材の需要の拡大と、代替品によって失われた需要の回復を図る以外にないのではないかと思われるわけでございます。 さて、つい先日のNHKテレビ番組「科学ドキュメント」で「ビル解体最新技術」という放送がありましたが、多分ごらんになった方も多いと思います。その放送の中で、鉄筋コンクリート建築物は、外見上はりっぱに見えるものでも、中には十年余りで解体しなければならないような疲れのひどいものもある、一見りっぱそうでも内部の鉄筋の腐食がはなはだしく進んでいるという話がありました。これは、もちろんコンクリートの配合や施工の方法などに問題もあるということですが、木造の建築では百年を超えるという古い建築もそう珍しいものではありません。耐久性において木材は著しく劣るものという一般的観念が支配的でありますが、木材は使う場所によって、あるいはまた使い方あるいは樹種によってそれぞれ特徴を発揮し、十分に目的を果たすことができるものであります。 たとえば、鉄筋コンクリートの建築物でありましても、床や壁面を木材質の材料にすることによって、暖かさとやわらかさを出すことができるばかりでなく、室内の湿度を調節する働きもできるのであります。また、小径材であっても十分使用に耐えるものであり、たとえば小径材に節が多いとか形状に難点があるといたしますならば、このような材は、根太材や大引き、あるいは小屋組み材料や土台、間柱など、いわゆる見え隠れ材として使用すれば、使用場所は相当広範囲であり、しかも強度その他において実用上大した遜色はないのであります。このような材をできるだけ活用することによって、高騰一方の建築費を相当安価に抑えることができるのであります。このような点も強調して、木材需要、特に国産材の需要掘り起こしに努力すべきであろうと存ずるものであります。 そこで第一点といたしまして、木材需要に関連しまして質問をいたします。 環境は人をつくり、人は環境によって大きく左右されると申します。私たち県民が日夜心を痛めていることは、大方が教育の問題であり、りっぱな施設、落ち着いた環境で存分に学ばせてやりたいというのが親一般の願いであろうと思うのであります。 初めに申しましたように、人格形成が環境に支配されることが大きいということについては、どなたにも異論のないところであろうと思います。これは多少の例外はありましても、ふだんどこでも見聞することができます。これは動物でも同じであり、犬とともに育った猿は決して犬猿の間柄にならないでしょうし、阿蘇の赤牛のように大自然の中で制約を受けることなく放牧で育ったものは、舎飼いの牛に比べて非常におとなしいものであります。 さて、木材には欠点もありますが、幾つかの非常にすぐれた特徴があります。それは全体にぬくもりを感ずるということであり、触れると温かみがあり、落ち着きを感ずることであります。また、木材特有の木目はきわめて芸術的であって、見る人によってはさまざまな幻想にふけることも可能でしょう。さらに、使い古していくことによって重厚味を増し、何よりもすぐれていることは室内温度の調節を果たせるということであります。このように木は人間の心身両面にわたる健康保持によい影響を持つ材料ということが言えましょう。 さて、現在の学校を見ますと、鉄筋コンクリートづくりにビニール系の床材、机もいすもすべてスチール製、たまに畳の部屋があるかと思うと建具はすべてアルミサッシといった具合で、実に味もそっけもない学校が非常に多いということであります。これでは教育環境として余りにも冷たい素材ばかりではないでしょうか。それに比べ、木の床、木の机、木のいすというのは、どんなに子供の心をなごませ、情操豊かな子供を養育することができるでしょう。次代のわが国を担う子供たちをよりよい環境で学ばせたい、これが私たち県民の願いです。 幸い、本県では昨年来、全国に先駆けて、県内十数校において床にヒノキの縁甲板が張られ、それなりに大きな教育効果が上げられており、関係者の御英断に対し感謝と敬意を表する次第であります。床の板張りを実施した学校の先生方によりますと「床は何といっても木材が一番ですよ。木材にはぬくもりがあり、やわらかく人間的な温かみを感じます。それに弾力があるから疲れません。生徒が転んでもけがが少なくなりました」と一様に喜んでおられます。また、子供たちも同様のことを言っておるようですが、特に掃除でふき込むほどに光沢が出ることを大変楽しみにしているということです。 つい先ほど愛媛県におきましては、本年四月から高等学校の机、いすを木造に切りかえるため、すでに設計、製作に着手したという新聞記事がありました。また、高知県におきましても同様、小中学校の机、いすを木造化するという記事がありました。このように学校教育の場に豊かでソフトな木の文化を持ち込みたいという動きが各地で見られます。 本県では、すでに一部で実行されてはおりますが、今後の新設学校につきましては、構造そのものとまでは申し上げませんけれども、せめて壁面、床はもちろんのこと、机、いすまでの木造化についてお考えをお願いしたいと思います。また、新設校に限らず、内装の改造更新など機会あるごとに、教育の場に木の文化を持ち込む木造化を進めてはどうかと思いますが、いかがでございましょうか。教育長の御答弁をお願い申し上げたいと思います。  〔教育長外村次郎君登壇〕 ◎教育長(外村次郎君) 学校施設への木材使用の促進につきましてお答え申し上げます。 申し上げるまでもないことでございますが、教育施設、つまり学校の校舎等は単なる構造物ではございません。そのありようによりまして、教師の教育を支えると同時に、児童生徒の活気ある学校生活あるいは活動を引き出し、また学習への意欲をかき立てるわけでございます。特に子供たちの日常の生活には深くかかわっていくものでございまして、私どもも幼い日の学校の建物のあちこちは、いろんなこととつながって思い出されてくるわけでございます。そういったことで、施設は教育理念の具現化されたもので環境が人を育てるとただいまお話しがございましたが、まことにそのとおりだと考えるものでございます。 学校の校舎は、昭和三十年代ごろから、建築物の恒久化、耐久化、耐火性、耐震性等を主流といたしまして、もっぱら鉄筋あるいは鉄骨造等の不燃建築物への推移がございまして、生産流通や施工上の事情等もあったかと思いますが、木材製品の需要が大きく後退し、昨今の状況となっておるところでございます。 御指摘のように、木材には材質からくるやわらかさ、安らぎ、あるいは周囲の環境の急激な変化を緩和する等数々のすぐれた特質があるわけでございますが、反面、良質かつ均一な材料の確保や施工上の問題点、あるいは現在ではかなり価格が高くつくといった問題等もございます。また加えて、アリの害あるいは腐朽等のこともございましていろいろ問題もあるわけでございます。 しかし、近来特に豊かな人間をはぐくむという面で、教育施設環境として木の特性が高く評価されてまいりまして教育委員会におきましても、価格等の問題がございますけれども、極力床材等への使用検討を地教委等にもお願いいたしておるところでございます。おかげをもちまして、はだしで跳びはね、あるいはぞうきんがけで心を磨く教育効果を目指しまして、廊下に昔ながらの木の床を採用するといった施設づくりが最近県下にふえつつあるところでございます。新設高校等につきましても、できるだけ木材を使用いたしますよう、可能な部分への使用について現在検討をいたしておるところでございます。 今後とも木材の利用については積極的に取り組んでまいりたいと考えております。 なお、机、いすを木製にということにつきましては、大変好ましいことでございますけれども、現在、耐久性、価格等の問題もございまして、なお研究させていただきたいと考えております。よろしく御指導のほどお願い申し上げます。  〔北里達之助君登壇〕 ◆(北里達之助君) 教育長の積極的な答弁をいただいたわけでございますが、皆さん方も御承知のように、最近の子供は、ふろに入りましてから手ぬぐいがしぼれないということでございます。もちろんバスタオルという便利なものができましたから、ぬれたままで体をふくことがないわけでございますが、お互い子供のときは、ふろに入ったらその洗ったタオルをしぼって体をふいたものでございます。それは基本的には、ぞうきんがけをやらないという、ぞうきんしぼりがないから、そういうふうな結果が私は出てきたんじゃないかと思うわけでございます。 なお、最近、子供の扁平足というのが問題になってまいりました。われわれ子供のときは、はだしで板張りの廊下を走っておりましたけれども、鉄筋コンクリートになりましてからは全部上履きを履くということに変わってまいりました。そのようなこと等考えてまいりますと、子供の健康あるいは情操面、あるいは木材の使用、一挙両得も三得もあるような気がしてならないわけでございます。どうぞひとつ、知事さん初め、そして教育長さん、ともに一緒になって、学校建築におきましては、できるだけ木材を使用していただくことを切にお願い申し上げたいと思います。 次に、同じく林業部門でございます特用林産物の振興についてお尋ねをいたします。 本県の農山村及び山村農家のおよそ六五%は、山林を保有するいわゆる農家林家であります。これらの農家では、林業は農家経営の一部門として、耕種農業や畜産あるいは養蚕などとともに相互補完的な役割りを果たしており、特に山村地域では必然的に耕地は狭隘であり、林業への依存率は相対的に高くなっているのであります。ところが、先刻も申しましたように、地球規模での、しかも長期不況の中で、農家経済を補完すべき林業部門の収益も極端に悪化しており、当分の間、木材による収益に大きな期待を寄せることはむずかしい現状にあるのであります。 このような現状の中で、林業の長期性を補い、かつ農家の現金収入に寄与しているのが、キノコ類を初めとする特用林産物の生産であり、本県でも年間約九十億円余りの生産額を誇っており、さらに拡大発展の機運にあるのであります。また、地域によっては、現状打開のために新しい特用林産物を模索し、その開発に大きな期待を寄せているところもあります。 特用林産物の生産は、いまや本県農林家の副次部門として、あるいは主業として定着しており、地域振興に重要な役割りを果たしているのであります。たとえば、昨年の農林水産祭で天皇杯を受賞された小国町の長要氏のように、干しシイタケの専業生産でりっぱな自立経営をやっておられます。また人吉市では、タケノコ栽培を主業とする複合経営ですぐれた成績を上げておられる有瀬氏、その他特用林産を主とする複合経営農家は数知れずあります。 しかしながら、従来、特用林産物はごく限られた地域での少量生産であったために、取引単位に満たないとか、あるいは生産が断続的であるなどによって挫折したり、また需給のバランスを崩して消滅したものもあったと聞いております。 もともと特用林産物は、どこにでも何でもできるというものではなく、品目による適地性というものもあります。また、原料資源の賦存状況や今後の資源造成の可能性、あるいはそれによる生産の断続性及び生産の集団化など、十分な検討に基づく周到な計画が必要であろうと存ずるのであります。また、従来の収奪的な特用林産物の生産では資源の枯渇化が著しく、将来に大きな禍根を残すことにもなりかねないのであります。したがいまして、特用林産の振興に当たっては、これらのことも十分考慮の上、一層安定的な振興を図られるよう希望するものであります。 このような意味におきまして、県の基本的な指導方針なり振興計画について林務水産部長にお尋ねいたします。  〔林務水産部長伴正善君登壇〕 ◎林務水産部長(伴正善君) 特用林産物の振興についてお答え申し上げます。 まず、振興しようとします特用林産物の種類が、その地域の気候や土地、環境等に合っているかどうか、あるいは資源の賦存状況、導入する余地があるかどうか、技術的な対応ができるかどうか、需給の動向はどうなっているか等について留意する必要があります。 そこで、県では、市町村、森林組合、関係団体及び学識経験者などを構成員とする特用林産物需給安定協議会により特用林産振興基本計画を作成しておりまして、この協議会によりまして、需給の動態あるいは振興計画の実施状況などについて毎年協議を続け、振興の方向に間違いのないよう留意しているところであります。この基本計画では、需要が安定的に拡大傾向にあるもの及び今後拡大が予想されるものを主体として、それらの特用林産物がどの地域で振興できるか、また県全体としてどのくらいまで生産可能かなどを計画しています。 主要な作物としましては、需要が最も安定拡大基調にあり、しかも栽培技術が県下全域に普及しておりますシイタケと、需要が拡大傾向にあり、コスト低減と品質によって輸入品に対抗し得るタケノコ等を取り上げ、シイタケにつきましては昭和六十二年の生産目標を、干しシイタケで千二百トン、なまもので千トンとし、そのための原木林の造成、生産基盤の整備、生産施設の近代化などによるコストの低減、流通の簡素化を計画しております。タケノコにつきましても、一万六千トンを目標としまして、生産基盤の整備や施業改善によるコストの引き下げ、出荷規格の統一による品質の向上を目指しているところであります。 このほか、需要が増加傾向にありながら国内資源が減少しているものとして、薬用植物のキハダ、オウレン、山菜のワサビ、ゼンマイなど、そのほか開発利用を促進することによって広大な資源の活用が期待されるものといたしまして、竹などを振興特産物としています。 振興の方法といたしましては、林産集落振興対策事業を主軸といたしまして、関連する各種の制度事業などを適用して、生産から流通に至る総合的な振興を図るとともに、特に流通につきましては、生産団体の役割りを強化していくよう配慮してまいる所存でございます。  〔北里達之助君登壇〕 ◆(北里達之助君) 構造不況の中で、林業だけに限らず農業も非常に厳しいわけでございますが、最近学者の書いた本を見ますと、日本の林業は「木茂って林業滅ぶ」ということが書いてございます。木はどんどん自然に大きくなってまいりますけれども、林業を業としては成り立たないであろうというふうに書いた本もございます。そういうことを考えてまいりますと、先ほどから申し上げましたように、せっかく営々として育てた林が、あるいはそれを業とする林家が、この後どうなるかということは大きな問題であろうと思います。できるだけ公共事業に木材の使用をふやしていただき、さらにはそれを補完いたします特用林産物につきましても、県の積極的な指導と、そして行政によって生産が上がり、いわゆる林家の所得がふえるように格段のひとつ御配慮を賜りたいと思います。 林業問題を終わりまして、次に農政問題に入らせていただきたいと思います。本県の代表的な水稲の品種の一つになっております「日本晴」の後を継ぐ品種の開発について農政部長にお尋ねをいたしたいと思います。 御承知のとおり、わが国においては、国民の必要とする米をどうして自給するかということが長い間農政の大きな課題でありましたが、なかなかその目標を達成することができませんでした。しかし、第二次世界大戦後、品種改良や肥料、農薬などを中心とする稲作の技術革新が急速に進み、単位当たりの収量が大幅にふえたことなどから、昭和四十年代の前半には、ついにわが国歴史史上初めて念願の完全自給を達したのであります。これまでの間、米の増収を図るために費やされた農家の努力や、国、県等が払った人的投資、財政負担ははかり知れないものがあり、まさに農業関係のエネルギーはこの一点に集中されてきたと言っても過言ではありません。 しかし、その後、食生活の多様化とも相まって、米の一人当たり消費量が低下したことから米が余り始め、これまでの課題は一転して今度は、逆に米の生産を制限するということが農政の最重要課題になったのであります。そして米に関する施策は、すべて生産調整に重点を置く方向に転換され、生産性を高めるという視点は等閑視されてきたのであります。この結果、わが国における米の生産性の伸びは停滞し、反収は米の後進国であった韓国に最近追い越され、単価は国際水準の四倍にも達しているのであります。 ところで、本県における米は、粗生産額のおおむね二五%、九百億円の規模を誇る基幹作物であるばかりでなく、農家経営の基盤をなす重要な作物であります。また、国の農政審議会は、昭和五十五年十月に答申した「八〇年代の農政の基本方向」の中で、今後は日本型の食生活を定着させることが必要であると提言をしております。この日本型食生活とは、米や野菜、魚、大豆を中心としたわが国の伝統的な食生活のパターンに、肉類、牛乳、乳製品及び果実等が加わった食生活を目指しており、栄養的にもバランスのとれた豊かなものであります。 近年、日本人の寿命が急速に伸び、わが国が世界トップクラスの長寿国に仲間入りしたのは、この食生活が大きくかかわっているのではないかと、特にアメリカは大きな関心を寄せております。この食生活においても、中心をなすのは米であります。米は、このように農業生産の局面においても、また食生活の場においても、きわめて重要な役割りを果たしております。米の過剰がなお続き米価の値上げが期待できない今日ほど、米に対する前向きの施策がなおさら強化される必要があります。このような観点から、すぐれた米の品種を開発するということはきわめて重要な課題であります。 私が申し上げております「日本晴」は、良質米への志向が強まっていることを配慮して、昭和四十四年から実施された熊本県うまい米づくり運動の中で、高冷地域の奨励品種として取り上げられたものであります。そしてこの「日本晴」は、行政機関や試験研究機関、農業改良普及員の大変な努力によって、従来から種々雑多な品種が入り乱れていた高冷地域の品種を統一するとともに、収量の安定向上、品質の向上をもたらし、われわれの期待に大きくこたえてきたのであります。聞くところによりますと「日本晴」は、県内はもちろん福岡方面にも出荷され、消費者から高い評価を受けているようであります。 しかしながら、この「日本晴」にも問題がないわけではありません。御承知のように、高冷地は立地条件からして、低温、多雨、寡照の気象条件であるため、昭和五十年代に三回もの冷害異常気象を受け、特に標高の高い地域では、遅延型冷害によるいもち病の併発が作柄の低下をもたらしております。「日本晴」で最大の問題となるのは、このいもち病に弱いということであり、これに起因する被害は大きく、ところによっては三年連続の不作となっており、農家経営に大きな打撃となっております このようなことから「日本晴」の後を継ぐ品種が欲しいという声が一部の農家から出始めております。米過剰の現況の中においても農家は、生産の喜びを求めて努力するところに生活の喜びと農業の発展があり、農業者としての生きがいもあります。米価の上昇による農業所得の増大が期待できない現状においては、質のよいものを、しかも安いコストで生産することがこれまで以上に重要であると考えられるわけであります。このためには、良質多収であることはもちろん、病害虫その他気象要因等に強く栽培の容易な品種の開発が必要であることを痛感しております。 知事は、困難な情勢のもとで新しい農業の発展を図るためには技術革新が必要であることを強調しておられます。品種の開発、育成には相当長い年月を要すると聞いておりますが、阿蘇郡、上益城郡の一部における高冷地帯の主要品種である「日本晴」にかわる新しい品種の開発がいまどのように進められているか、農政部長にお尋ねをいたしたいと思います。  〔農政部長八浪道雄君登壇〕 ◎農政部長(八浪道雄君) お答えいたします。 水稲品種「日本晴」は、昭和四十三年に高冷地域に適する認定品種といたしまして採用されましてから、強悍で良質多収というすぐれた品種特性を有し、急速に農家に普及し始めてまいりまして、昭和五十七年度におきましては七千八百四十三ヘクタールとなりまして、高冷地域の水稲作付面積の八九・四%までに作付が拡大されている状況にございます。 しかしながら、ただいま御指摘がありましたように、「日本晴」は良質多収というすぐれた品種の特性を有します反面、高冷地域の水稲作で最も被害の大きいいもち病に対しまして弱いという弱点があるわけでございます。したがいまして、この地域の稲作経営を今後さらに安定向上させるためには、いもち病に強い品種の育成確保が品種開発上重要な課題となってきたところでございます。 現在、水稲品種の育成の手続等について若干申し上げますと、主要農作物種子法に基づきまして、国の直轄事業として、地域の育種目標に従いまして育種の試験事業が進められております。県としては、農業試験場におきまして、国の育種試験事業で育成されました系統品種をもとに奨励品種決定試験調査を行い、有望と認められる系統につきまして、さらに本場及び県下の二十カ所で現地試験を実施し優秀であった系統につきましては、県の奨励品種の決定審査会を経まして、農林水産大臣に対し登録を行い県の奨励品種としておるということでございます。 このようにいたしまして、水稲品種は組織的に研究育成が行われてきているわけでございますが、交配から新品種として登録され、農家に普及するまでには通常十二年から十五年程度の期間を要しているのが実情でございます。 本県としては、御指摘がありましたとおり「日本晴」にかわる、いもち病に強く、中山間、高冷地向きの新しい品種を早急に開発することが必要であるということから、新品種といたしまして昭和五十三年から、農業試験場の阿蘇分場、矢部分場及び球磨農業研究指導所におきまして、奨励品種決定試験調査及び栽培適応試験などに努力してまいってきたところでございます。この結果、早生種であります「黄金晴」がきわめて優秀であることが確認されましたので、五十七年三月に本県の認定品種に採用したわけでございます。 この「黄金晴」は「日本晴」に比較いたしまして、品種特性といたしまして、いもち病及び倒伏に強く、また品質、収量とも「日本晴」と同程度の試験成績でありましたので、引き続いて実施しました現地実証展示圃の実績をもとに、本年五十八年から「黄金晴」を積極的に普及させることによりまして、高冷地の稲作はさらに生産が安定向上するものと期待をいたしております。 今後の普及に当たりましては、特に品質向上を重視しました栽培技術指導等を強力に進めますとともに、消費者の試食会等を行うことによりまして「日本晴」にかわる自主流通米として、消費地におきます高い評価を得ますよう今後努力してまいる所存でございます。 なお、さらに標高が六百メートル以上の地域につきましては「日本晴」「黄金晴」よりもさらに熟期の早い品種が適するので、これらの地域につきましては、熟期が早く、しかもいもち病にも強く、さらにまた良質米であるという「ミネアサヒ」につきまして、栽培技術確立のための試験を実施いたしまして、早い機会に普及に移せるよう努力してまいりたいと、このように考えております。  〔北里達之助君登壇〕 ◆(北里達之助君) 日本の米の品種のうちで私どもが一番耳にしますのは、いわゆる東北にあります「コシヒカリ」「ササニシキ」でございます。ところが、聞くところによりますと農水省は、ポスト・コシヒカリ・ササニシキをどうするのかということをすでに論議を始めたそうでございます。私どもは「コシヒカリ」「ササニシキ」が日本の一番うまい米だということで、恐らくまだまだ永続的に栽培されるであろうと思っておりましたけれども、すでにそのようなことでポストを探さなければならないということになったそうでございます。「日本晴」だって同じだと思います。ただ、消費者の声をときどき聞きますけれども、やはり「日本晴」という言葉を聞くたびに、余り長くなりますと消費者に飽きがくるということが私は一つの大きな難点だろうと思います。米をつくることはいいんですが、消費者のニーズにこたえられるような米でなくてはならないというところにまた一つ大きな問題があるだろうと思います。どうかひとつ「日本晴」にかわる、そうして収益性の高い米の品種開発については、できるだけ県も御努力をいただいて、早い機会に農家の方々が安心してつくれる米の品種開発に取り組んでいただきたいと思うわけでございます。 次に、最後になりましたけれども、養蚕の振興についてお尋ねをいたしたいと思います。 わが国の蚕糸業は、伝統ある民族産業として長く国民経済に寄与してまいりました。絹需要の伸び悩みと海外絹製品の流入によって、その生産は漸減傾向を示しており、本県の養蚕も、平たん既成地帯から中山間、高原地帯への山地移動とともに減少傾向を続けておりますが、昭和五十七年度の繭生産は一千四百十六トンで全国第九位、九州第一位となっており、中山間、高原地域における土地利用型作物として両地帯において農家経済上重要な地位を占めております。 一方、本県の製糸業は、地場資本を主体に地元養蚕農家との固いきずなで結ばれて、長い間にわたり本県産業の振興に寄与してまいりました。県内製糸業者は、近年十社中五社が相次いで休業あるいはまた閉鎖をされ、昭和五十七年度においては五社のみが操業をしている現状で、この休業、閉鎖の理由は、繭の生産減退が主因であることは明白であり、事実昭和五十六年度における県内産繭供給率は三五%ときわめて低下しています。このことは、県として県産品の二次加工を推進されているとき、また製造加工業の定着化を推進されようとするとき、大変な問題だと考えます。 本県の養蚕、製糸が将来とも安定的な発展を期すために最も必要なことは、積極的な繭の生産確保ではないかと思います。本県の養蚕は、長い歴史の中で常に西日本第一位、九州第一位の座を確保し、またこれを原料として立地している製糸工場も関西第一位を占めておりますが、戦後最も収繭量の多かった昭和四十三年の四千二百トンをピークとして、その後、繭の生産は下降傾向をたどっており、養蚕戸数、桑園面積の減少に加え、桑園十アール当たりの収繭量の低下が大きな要因となっていると考えられます。つまり、県の発表によりますと、四十三年の九十六キログラムから、五十五年は戦後最低の五十九・九キログラムとなりましたが、五十六年より品質向上、低コスト運動等によりやや上向きとなり、五十七年は七十一キログラムまで回復してまいっておりますが、それでも四十三年に比べますと七九%にとどまっているということでございます。本県の養蚕の振興を図るためには、土地生産性の向上が最大の課題だと考えますが、これを推進するためには、ハード、ソフト両面からのてこ入れが必要と存じます。 御承知のように、養蚕は、桑を栽培し、これを飼料として小動物の蚕を飼い繭を生産するものでありますが、種々の蚕病、気象災害あるいは農薬、たばこの被害対応など特殊で複雑な技術が必要な作目であるために、蚕業技術普及組織としては、蚕業指導所における蚕業改良指導員と農協に設置しております嘱託蚕業普及員による普及体制がとられておりますが、生産量の推移に伴って本県でも相当数の削減が行われてきたところであります。 さらに、政府は現在、第二次臨調に端を発し、農林水産業全般の改良普及制度について、従来の補助金制度から交付金制度への移行など根本的な見直しを行っております。これら普及体制の効率的な運用は、時代の要求するところであり必要だとは思いますが、養蚕の特殊性を考えますとき、県の施策が末端農家まで浸透し確実に成果を上げるためには、やはり普及組織の果たしている役割りはきわめて大きいものがあると考えるものであります。 いずれにいたしましても、養蚕が本県の中山間、高原地帯における農業経営の一つの柱として定着し、活力ある地域づくりの一翼を担うためには、この際積極的な施策の展開が必要と思われます。農政部長の御所見をお伺いしたいと思います。 次に、要望でございますけれども、稚蚕人工飼料育に対する指導援助の問題でございます。 御承知のように、稚蚕人工飼料育は、戦後の養蚕技術としては最も画期的と言われており、省力化、蚕作安定を目的として県下各地に設置され、着々その実績を上げつつあり、しかも本県は、九州はおろか全国第一位の普及率だと伺っております。大変結構なことだと存じます。しかし、蚕の作柄は稚蚕飼育で決定されると言っても過言ではないほど重要な作業でございますので、優良飼料の供給、材質の改善、飼育期間の延長等について、今後とも十分な御指導、御援助をいただきたいと思います。 農政部長の答弁をいただいて再登壇をいたします。  〔農政部長八浪道雄君登壇〕 ◎農政部長(八浪道雄君) お答えいたします。 養蚕の振興につきましては、市町村、生産団体、学識経験者等の御意見をお聞きするなどいたしまして、高能率養蚕地域整備基本方針を昨年の三月に策定しまして、それに基づき県下九カ所を養蚕振興地域に指定いたしまして、各種事業を通じ足腰の強い養蚕産地の育成を図っているところでございます。 本県の養蚕は長い歴史を持っておりますが、昭和四十七年ごろから平たん部から中山間部への産地移動が始まり、繭の生産量は全体的には減少しておりますものの、一戸当たり規模では、桑園で養蚕最盛期の昭和四十三年の四十アールが七十アールに、それから収繭量が三百二十九キログムラから五百二十九キログラムヘと、それぞれ一九三%、一六一%と伸びを示しております。また繭一トン以上を生産されております農家も百七戸から三百十六戸へと増加をいたしておる状況にございます。特に昭和五十七年におきましては、県下で初めて全国でもトップクラスの五トン農家の方が菊池市に誕生するなど、経営の改善は着実な進展を見せ、ようやく中山間地帯に定着しつつあると、このように考えております。 しかしながら、ただいまも御指摘ございましたとおり、平たん部から中山間部への産地移動に伴いまして経営規模は大型化しましたものの、中山間部の土地条件等からいたしまして、十アール当たりの収繭量が低迷いたしているのも事実でございます。一昨年発表いたしました八〇年代熊本県総合計画では、十アール当たり収繭量の引き上げを図ることを重点項目といたしまして、昭和六十年二千三百トン、それから昭和六十五年二千七百トンの生産見通しを立てまして、養蚕農家の所得増大と県内製糸工場への原料繭の安定供給を図りまして、本県蚕糸業の振興に努めることといたしておるところでございます。 その対策といたしまして、養蚕総合振興対策事業を五十六年度三カ所、五十七年度四カ所実施してきたわけでございますが、今後とも引き続き実施をすることといたしまして、省力新技術の普及推進あるいは低コスト養蚕経営基盤の整備を図ってまいりたいと、このように考えております。また、樹齢十五年以上の老朽桑園の計画的な改植、十アール当たり植栽本数を現在の八百本から一千二百本以上とする密植、多植栽培への誘導、桑園管理の効率化をねらいとしましたポリマルチ栽培の推進、近年激発の兆しのあります桑萎縮病防除対策等を中心に今後とも積極的に推進してまいる所存でございます。 さらに、これらの生産対策と相まちまして重要な役割りを果たします普及組織につきましては、嘱託蚕業普及員を養蚕振興指定地域に重点を置き配置しまして普及拠点づくりに努めますとともに、営農モデルの策定と、これに基づく土地利用の合理化、生産作業単位の拡大、先進技術の導入、その他各種生産条件の整備を総合的、体系的に推進することにより、生産コストの低下と品質の向上を推進することといたしまして、養蚕農家への普及サービスの低下を来さないよう関係団体とも緊密な連携を保ちながら、今後本県の蚕糸業振興に引き続き努力してまいる所存でございます。  〔北里達之助君登壇〕 ◆(北里達之助君) 県の施策によって、御承知のように企業誘致対策室をつくられてわざわざ企業誘致をされている現状でございます。御承知のように製糸工場も、いわゆる地場の工場として今日までそれぞれの立場で寄与されてきたと思うわけでございます。せっかく企業誘致をそれぞれの経費をかけて誘致されるならば、地場であえいでおりますいわゆる製糸工場を企業の一つと見ていただいて、それを助けることも私は必要だろうと思います。 それをするためには、やはり繭の生産をふやさなければ製糸工場は生き残れないということでございます。繭の生産が減れば技術員を減らしていくというような悪循環をたどっておっては、繭の減産に歯どめがなかなかできないと思うのは私一人だけではなかろうと思います。どうぞひとつ、この辺で繭生産の減少に歯どめをかけるということで、県並びに関係団体一体となってがんばるべきではなかろうかと思いますので、どうぞひとつ県の行政的な力と、そして援助をお願い申し上げたいと思います。 通告を申し上げました質問事項はこれで終わらせていただきますが、いよいよ私が今会期の、そしてまた先ほど申し上げましたように任期中最後の一般質問になってしまいました。改めて、この四年間いろんな点で御指導いただきました先輩の皆さん方に厚くお礼を申し上げますとともに、伝え聞くところによりますと御勇退をいたされる先輩議員の方もいらっしゃると承ります。御勇退をいただきましても陰に陽にどうぞひとつ私たちを御指導いただき、そしてなおますます健康で御発展をいただきますことを心からお祈りする次第でございます。 なお、四年間を振り返ってみますと、さまざまな出来事がございましたけれども、まことに私どもが残念に思いますのは、御承知のように昭和五十五年の十月には一門勉議員が、そして五十六年の六月には斉所市郎議員が、そしてなお五十七年の一月には西岡良平議員が、それぞれ三人の先生方が御逝去されたわけでございます。 この任期の最後に当たり、三人の先生方に対し皆さん方と一緒に御冥福をお祈り申し上げ、さらに再度選挙に挑戦をいたされます先生方の御健闘を、そして次の議会には全員の皆さん方がひとつ当選をされて、この議場でにこやかに会議が開かれますよう心からお祈りをいたしまして、私の質問を終わりたいと思います。(拍手) ○副議長(井ノ上龍生君) 以上で通告されました一般質問は全部終了いたしました。これをもって一般質問を終結いたします。      ―――――――○――――――― △日程第二 議案第二十一号から第四十六号まで及び第五十一号から第六十号まで(委員会付託) ○副議長(井ノ上龍生君) 次に日程第二、目下議題となっております議案第二十一号から第四十六号まで及び第五十一号から第六十号までにつきましては、さきに配付の昭和五十八年二月熊本県定例県議会議案各委員会別一覧表のとおり、所管の常任委員会にそれぞれ付託して審査することといたします。  〔各委員会別一覧表は付録に掲載〕      ―――――――○――――――― △日程第三 請願及び陳情 ○副議長(井ノ上龍生君) 次に日程第三、今期定例会において本日までに受理いたしました請願書は、議席に配付の請願文書表のとおりであります。これをそれぞれ所管の委員会に付託して審査することといたします。 陳情書は、議席に配付の陳情一覧表のとおり所管の委員会に付託して審査いたします。 なお、後日会期中に受理いたします請願書及び陳情書については、議長において所管の委員会に付託することといたしますので、さよう御承知願います。  〔請願文書表及び陳情一覧表は付録に掲載〕      ―――――――○――――――― △日程第四 休会の件 ○副議長(井ノ上龍生君) 次に日程第四、休会の件を議題といたします。 お諮りいたします。明十日は各特別委員会開会のため、十一日及び十二日は各常任委員会開会のため、十四日は議事整理のため、会議はそれぞれ休会いたしたいと思います。これに御異議ありませんか。  〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕 ○副議長(井ノ上龍生君) 御異議なしと認めます。よって、明十日から十二日まで及び十四日は休会することに決定いたしました。 なお、十三日は日曜日のため休会であります。      ―――――――○――――――― ○副議長(井ノ上龍生君) 以上で本日の日程は全部終了いたしました。 明十日から十四日までは休会でありますので、会議は来る十五日午前十時から開きます。日程は、議席に配付の議事日程第九号のとおりといたします。 本日はこれをもって散会いたします。  午後二時二十分散会...